第7回広島本大賞ノミネート作品の紹介/3月下旬に発表される「広島本大賞」にはどの作品が選ばれるのか!?

ご存知の方も多いかと思いますが、私は「広島本大賞」の実行委員をやっています。広島の書店員とタウン誌編集者有志が運営している、広島の魅力あふれる作品を紹介し広めて、その中から「広島本大賞」を選ぶ、まだまだ規模は小さいですが、いろいろ頑張っている賞です。
公式ツイッターアカウントもあります。


2019広島本大賞 (@hirobooktaisho) | Twitter


現在は第7回目の広島本大賞が動いておりまして、既にノミネート作品10作品が発表されています。「ほんのひきだし」さんでも紹介していただきました。


これぞ広島県!のご当地本「第7回広島本大賞」ノミネート作品が決定! | ほんのひきだし


10作品に絞られるまでも激論を重ねた、どれも自信を持って「広島の魅力が出てます」と言える作品だと思います。今後、広島県内の協力書店でのノミネート作フェアを経て、3月下旬に大賞が発表され、5月ごろに授賞式を行う予定です。ぜひ注目してみてください。


カープ風雪十一年

カープ風雪十一年

強父論

強父論

銀杏アパート

銀杏アパート

三江線写真集

三江線写真集

じけんじゃけん! 1 (ヤングアニマルコミックス)

じけんじゃけん! 1 (ヤングアニマルコミックス)

徳は孤ならず 日本サッカーの育将 今西和男

徳は孤ならず 日本サッカーの育将 今西和男

広島カープ 最強のベストナイン (光文社新書)

広島カープ 最強のベストナイン (光文社新書)

広島の探偵 (文庫)

広島の探偵 (文庫)

夜行

夜行

子どもたちに大人気「サバイバルシリーズ」の歴史編「歴史漫画サバイバルシリーズ」は山田風太郎的な味わいがあるぞ

書店員なら誰もが知っている、あるいは小学生のお子様をお持ちの方ならみなさんご存知なのが、朝日新聞出版の「サバイバル」シリーズです。
ものすごーくざっくりと紹介すると、火山、地震、ウイルス、恐竜世界など、様々なシチュエーションにおかれた主人公たちが、その危機を克服していく様子を通じて、テーマとなった世界の知識が得られるという科学学習漫画のシリーズです。
科学漫画サバイバルシリーズ 公式サイト|シリーズ一覧


元々は韓国で発売され大ヒットしたものの日本語輸入版なわけですが、実は日本でもオリジナルのシリーズが現在刊行中。それが「歴史漫画サバイバル」シリーズです。奈良時代平安時代、戦国時代、江戸時代など、様々な時代にタイムスリップした主人公がその時代について学んでいくシリーズになっています。
http://publications.asahi.com/original/shoseki/sv/sub/rekishi/index.shtml


で、その新刊である『大正時代のサバイバル』をぱらりらしてみたのですが、これが読んでびっくり。

東京タワーのエレベーターに乗っていたら、浅草十二階(凌雲閣)にタイムスリップしていた、という書き出しからしてすげえわくわくするではないですか。そこでまず出会うのは宮沢賢治。手に持っていた「注文の多い料理店」の原稿を見て「それ面白かったです」と言い、宮沢賢治が「まだ冒頭しか書いてないんだけど……」と戸惑うシーンが。
さらに尾崎行雄平塚雷鳥に会ったり、関東大震災に遭遇したりと、大正時代全部メガ盛り、みたいな感じ。極め付きは江戸川乱歩先生の登場です。

「日本で初めて本格的な推理小説を書いたといわれてる人」という解説は結構ざっくりしちゃってると思いますけどね……「推理小説」という言葉は当時から日常的だったっけ?


それはともかく、乱歩先生が暗号の秘密を解く手伝いをしてくれる、というストーリーになっていました。
ことほどさように、大正時代のネタがたくさん盛り込まれていて、しかも主人公がことごとく出会うという、まるで山田風太郎の小説のような世界が広がっていました。大人が読んでもなかなか楽しいです。
機会があればぜひ手に取ってみださいねー。

2017年ブレイク必至のミステリ作家を、一人だけ挙げておきます。

自分の店で、あるいはチェーン店で、「今年きっとブレイクするミステリ作家フェア」というのを時々やってきました。2012年に初めてやったのですが、その後2013年、2016年にも同様のフェアをやりました。ここで採り上げた作家さんをざっと振り返ってみます。

2012年(次世代ミステリ作家フェア)
飴村行
初野晴
長岡弘樹
長沢樹
梓崎優
円居挽
滝田務雄
福田和代
月村了衛


2013年
小嶋達矢
友井羊
宮内悠介
似鳥鶏
伊岡瞬
門井慶喜
鯨統一郎


2016年(今年はこの作家がブレイクするぞ!フェア)
井上真偽
白井智之
早坂吝
深緑野分
下村敦史
周木律
深木明子
青崎有吾
本城雅人
田丸雅智

いかがでしょう。なかなか鋭いところを突いてると思いませんか? 2013年の宮内悠介さんはまだ『盤上の夜』しか出てなかった頃ですよ。


2016年も本ミス一位の井上真偽さん、直木賞候補になった深緑野分さん、今や若手ショートショート作家の旗手と言っても過言ではない田丸雅智さんなど、いいセレクトです。自分のセンスが、というよりは、活躍された作家さんがすごいんですよ。


さて、今年2017年はまだ同様のフェアはやってないのですが、今年のブレイク作家を一人、ここで予言しておきましょう。
芦沢央さんです。
……え、とっくに売れてるって? もちろんです。しかしきっと、今以上に売れる人気作家になるだろう、ということです。そうなって欲しいのです。
芦沢さんのデビュー作『罪の余白』は映画化もされました。

罪の余白 (角川文庫)

罪の余白 (角川文庫)

ただ実はごめんなさい、これは私は未読です。『今だけのあの子』は読んでます。
本格的に注目するようになったのは、2016年最初に読んだ『いつかの人質』でした。こりゃすげえ、思わぬ拾い物だ、と思いました。
いつかの人質

いつかの人質

そしてあれですよ、『許されようとは思いません』ですよ。これはミステリ短編集の歴史に残る、いや、残すべき作品集ですね。
許されようとは思いません

許されようとは思いません

そして去年出たもう一つの作品が『雨利終活写真館』です。「遺影専門の写真館」という舞台で、人の生と死に絡んだミステリが描かれます。意外な真相の向こうに浮かび上がる人間たちの温かみに感動しますよ。
雨利終活写真館

雨利終活写真館

というわけで、今年はもっと売れて欲しい、と応援しております。皆さんも読んでみてくださいね。

なんとなく、ざっくりと、ぼんやりした感じの、2017本屋大賞ノミネート作品予想(※22:09一作品追加しました)

2017年の本屋大賞が既に始まっておりまして、現在は一次投票が終わったところ。投票を集計してベスト10の作品がノミネート作品となり、1月18日(水)に発表される予定です。


この段階だからこそできる企画として本屋大賞ノミネート作品予想」をやってみたいと思います。
ただ、なんとなくぼんやりとした感じで「この作品あたりが入るんじゃないかなあ〜〜」くらいのスタンスで見ていただきたいのです。一応、それぞれに私なりの理由と根拠があるのですが、そこを詳しく書くとシビアな話になってくるし、作家さんにも作品にも失礼でしょう(予想すること自体がもう失礼なのですが)。私は第一回目から投票に参加しており、第二回からは発表式の会場にも毎年行っています。ただし、実行委員の経験はありません。あくまでも参加者の一人です。今までずっと参加してきた書店員の端くれとしての「ざっくりとした勘」とでも言いましょうか。そんな感じのぼんやりしたものです。あの作家さんとは仲がいいからとか、あの作家さんを応援しているからとか、そういう身びいきは排したつもりです。


順位とかの予想ではありません。ノミネートに残りそうな作品の予想です。もちろん、現在集計中の結果も全く知りません。
以下、予想する作品を二段階に分けます。「ノミネートに残る可能性が高そうだな〜」な作品A群と「A群よりは可能性低そうだけど、入ってもおかしくない」作品B群です。


では、作品予想です。
あくまでも、ぼんやり、ざっくりしたものですよ。
まずはA群から。

2017年本屋大賞ノミネート作品予想(どちらかといえば、可能性が高そうかな?)


小川糸『ツバキ文具店』(幻冬舎
ツバキ文具店
恩田陸蜜蜂と遠雷』(幻冬舎
蜜蜂と遠雷
門井慶喜『家康、江戸を建てる』(祥伝社
家康、江戸を建てる
川口俊和コーヒーが冷めないうちに』(サンマーク出版
コーヒーが冷めないうちに
塩田武士『罪の声』(講談社
罪の声
住野よる『また、同じ夢を見ていた』(双葉社
また、同じ夢を見ていた
西加奈子『i』(ポプラ社
i(アイ)
原田マハ『暗幕のゲルニカ』(新潮社)
暗幕のゲルニカ
村田沙耶香コンビニ人間』(文藝春秋
コンビニ人間
森絵都みかづき』(集英社
みかづき
森見登美彦『夜行』(小学館
夜行
米澤穂信『真実の10メートル手前』(東京創元社
真実の10メートル手前

なんと、これで12作品になってしまいました。仮にこれらが全部揃っても、2作品が溢れることになります。いや、同率10位の可能性もありますけれども(過去にありました)。


続いてB群。ノミネートに入ってもおかしくないよね、な作品です。

2017年本屋大賞のミート作品予想(入ってもおかしくないよね?)


芦沢央『許されようとは思いません』(新潮社)
許されようとは思いません
彩瀬まる『やがて海へと届く』(講談社
やがて海へと届く
今村夏子『あひる』(書肆侃侃房)
あひる
大島真寿美『ツタよ、ツタ』(実業之日本社
ツタよ、ツタ
川村元気『四月になれば彼女は』(文藝春秋
四月になれば彼女は
窪美澄『すみなれたからだで』(河出書房新社
すみなれたからだで
小林由香『ジャッジメント』(双葉社
ジャッジメント
新海誠『小説 君の名は。』(KADOKAWA)
小説 君の名は。 (角川文庫)
住野よる『よるのばけもの』(双葉社
よるのばけもの
崔実『ジニのパズル』(講談社
ジニのパズル
辻村深月東京會舘とわたし』(毎日新聞出版
東京會舘とわたし(上)旧館
中村文則『私の消滅』(文藝春秋
私の消滅
平野啓一郎『マチネの終わりに』(毎日新聞出版
マチネの終わりに
村山早紀『桜風堂ものがたり』(PHP研究所)
桜風堂ものがたり

あーなんか、これを漏らしたかなあ、というものばかりあるような気がします。なんかすみません。
果たしてこれらの中から、18日にノミネート作品として発表されるのは何か。また、予想外のノミネート作品はあるのか。今から楽しみです。

私が必ずチェックする二人のノンフィクション作家

私はミステリマニアなので、基本的にはミステリを読んでいるわけですが、時々違うジャンルの本も買うし読んでいます。ノンフィクションは気分的にもいい切り替えになりますが、内容的にはハードなものも多いですね。でもそういうのが楽しみだったりもします。
そんななか、いま必ずチェックしているノンフィクション作家が二人いまして、この方の本が出ると必ずチェックするようにしています。全部が全部は読めてませんが、なるべく買って読むようにしています。
このエントリーでは、私が注目しているノンフィクション作家を簡単に紹介します。



一人目は辻田真佐憲さんです。日本の軍歌を紹介した本でデビューされ、以降、君が代大本営発表などをテーマにした本を出されています。プロパガンダ的な本ばかり出されていますが、がっつりな保守派ではなく、かといって反対派でもなく、一歩引いた目線で客観的に評論されているのが特徴です
去年出されたのは大本営発表』(幻冬舎新書1冊のみですが、私は個人的に去年のベストノンフィクションだと思っている本ですね。太平洋戦争中に発表された大本営発表をすべて研究し、いまでは「誇張表現」「嘘報道」の代名詞となっている大本営発表がいかに虚構にまみれていったのか、当時の空気が伝わってきます。と同時に、現代の日本にも似たような空気を感じないか、という警鐘を鳴らしているようにも感じます。
辻田さんの本では、他に『日本の軍歌』『ふしぎな君が代』(どちらも幻冬舎新書もお薦めです。

ふしぎな君が代 (幻冬舎新書)

ふしぎな君が代 (幻冬舎新書)

日本の軍歌 国民的音楽の歴史 (幻冬舎新書)

日本の軍歌 国民的音楽の歴史 (幻冬舎新書)



二人目は中川右介さん。元々クラシック音楽誌の編集長をされていたので、クラシックの歴史などにお詳しい方ですが、芸能界、歌舞伎、映画など、幅広い世界に精通されており、それを時系列にまとめた著書が多いです。数多くの資料にあたり、記憶頼りで書いていないので信頼性もあり、また中川さんも辻田さんと同じく、誰かに肩入れしない、客観的な視点で冷静に描かれているのが特徴です。文章からドラマ性が浮かんでくるのもすごい
去年はたくさんの本を出されていますが、個人的ベストは角川映画』(角川文庫)。ソフトカバーで出した本の文庫化ですが、やはり何度読んでも素晴らしい。角川春樹が隆盛を極めていた頃の「角川映画」の歴史をまとめています。

ほかにも『月9』(幻冬舎新書が素晴らしい作品で、「月9ドラマ」の最初の10年の歴史ですが、月9とともに成長していくSMAPの比重が大きくなります。去年最後に出された本はSMAPと平成』(朝日新書です。
SMAPと平成 (朝日新書)

SMAPと平成 (朝日新書)

中川さんの本は傑作揃いですが、昭和の歌姫の交錯の歴史をまとめた松田聖子中森明菜』(朝日文庫三島由紀夫が自殺した一日を著名人の言動の時系列で描いた『昭和45年11月25日』(幻冬舎新書、国に翻弄されたクラシック音楽家を描いた『国家と音楽家』(七つ森書館が特にお薦めです。
国家と音楽家

国家と音楽家


お二人の2017年の作品も楽しみにしております。ちなみに中川さんは、日本探偵小説史の出版に向けて執筆中のとことです。

2017年1冊目の読書は「文庫X」のコミック版だ

VS. ―北関東連続幼女誘拐・殺人事件の真実- (愛蔵版コミックス)

VS. ―北関東連続幼女誘拐・殺人事件の真実- (愛蔵版コミックス)

2017年1冊目の読書は、意外にもコミックとなりました。『VS. 北関東連続幼女誘拐・殺人事件の真実』(集英社ヤンジャンコミックス)です。日本テレビバンキシャ!」などで長期間キャンペーン放送された、北関東連続幼女誘拐・殺人事件の取材の経緯を、「テラフォーマーズ」の橘賢一さんがコミック化した本です。結果的に、足利事件の冤罪を証明し、菅家さんを無罪に導いた取材でした。
実はこのコミックが出たのが2010年。その後、このコミックでもメインで登場する記者の清水潔さんがこの調査報道を『殺人犯はそこにいる』として刊行したのは2013年のこと。2016年に文庫化した同書は、この年の出版界で最も話題になった「文庫X」としてベストセラーになりました。こういう本でもやり方次第で売れるのだ、ということを証明した形です。
その影響で、このコミックが重版されたようです。私が手にした本はこうなっています。

帯に大きく「文庫X」の文字が!
もうひとつ注目すべきは、奥付の発行日です。

2010年3月に発行されたコミックが、2016年12月になって第2刷が出た、ということです。つまり、このコミックは発売されたものの重版することなく、ひっそりと忘れ去られようとしていたところに、「文庫X」ブームで緊急重版された、ということになります。これも「文庫X」ムーブメントがもたらした効果といえるでしょう。
そうして読んだ『VS. 北関東連続幼女誘拐・殺人事件の真実』は、読み応えのあるコミックでした。ぜひ「文庫X」を読んだ皆さんにもお薦めします。
殺人犯はそこにいる (新潮文庫)

殺人犯はそこにいる (新潮文庫)

2016年の最後に出合った2016年最高傑作。これが無冠で終わるわけがない!

私はかつて、「音楽そのものを文章化した小説」を夢想していたことがある。誰も書き得なかった領域の小説を書くこと、たとえば、聴覚に障害のある人にも読んでいると頭の中に音楽が響いてくるような、そんな小説である。もしそれが書けるなら、自分はすげえ小説家になれるな、と。


もちろん、それは夢想のままで終わった。


だが現代の日本には、その難題に挑み、成功した人がいる。藤谷治の『船に乗れ!』だ。これを読んでいた私の頭の中で、オーケストラが響き渡った。世の中には天才がいるものだ、と思った。なので、その年の本屋大賞には、迷うことなく『船に乗れ!』を1位で投票した。

船に乗れ! 1 合奏と協奏 (小学館文庫)

船に乗れ! 1 合奏と協奏 (小学館文庫)

そんな私が2016年の最後に、『船に乗れ!』に匹敵する、いや、それ以上の小説に出逢ってしまったのだ。恩田陸蜜蜂と遠雷』である。
蜜蜂と遠雷

蜜蜂と遠雷

ピアノコンクールの一次予選から本戦までを描いた作品だが、小説ではなく、これはピアノコンクールそのものだ、と思った。それも一種類ではない、登場人物によってその音は全く違うのだ。小説とは、ここまでできるものなのか、と感動した。小説を読んでいるということそのものを忘れ、コンクールの現場にいるような感覚だった。
音楽だけでなく、青春小説の視点でも素晴らしい作品だった。帯には「文句なしの最高傑作!」の文字が踊っているが、まさにその通りだと感じた。


小説には様々なジャンルがあり、それぞれに素晴らしい作品がある。ミステリなら文句なしで『許されようとは思いません』(芦沢央)が私の今年のベストだ、というように。だが『蜜蜂と遠雷』は、2016年の小説のベスト・オブ・ベストだと断言したい。
現時点で(2017年1月5日現在)、『蜜蜂と遠雷』は直木賞候補になっている。個人的には本命グリグリの二重丸だと思うのだが、そう簡単に話がまとまらないのが直木賞なので……。でも、その前後に発表される「あの賞」にもノミネートされるかも知れない。どちらにしても、これが無冠のまま終わるわけがない。きっと何かの賞を獲ってくれるものと期待している。