門前典之『屍の命題』

屍(し)の命題 (ミステリー・リーグ)

屍(し)の命題 (ミステリー・リーグ)

かつて鮎川賞に投稿されて最終候補に残り、後に「新風舎」から自費出版で出版された『死の命題』が加筆修正して再刊された。
雪で外界から遮断された館で起こる連続殺人。最終的にみんな死んでしまうが、最後まで残っていた二人が残した手記で、恐るべき殺戮劇が描かれる。なんといっても、「雪の中を歩く巨大カブト虫」は、島田荘司を彷彿とさせる奇想だ。
誰もいなくなった後で館に乗り込んだ建築士・蜘蛛手によって事件の真相が明らかになるのだが、この仕掛けの奇抜さは、いやはやよくやったわ、と感心するしかない。同様の趣向の有名な先例(T・Aさんの某長編)もあるが、パターンが逆なのでさらにアクロバティックである。あまりにも奇抜であるがゆえに所々に無理があるのだが、それも含めて、こんな不可能状況を作り上げただけでもう凄い、と言わざるを得ない。