高野和明『ジェノサイド』は何冠王になるのか

今年上半期のミステリ作品で、圧倒的に評判がいいのが、高野和明『ジェノサイド』である。

ジェノサイド

ジェノサイド

書店の店頭でも、発売当初はそうでもなかったように思われたが、評判が広まるにつれてどんどん売れ行きが伸びていった。そして読む人読む人が大絶賛するようになった。
そしてまず、「本の雑誌が選ぶ上半期ベストテン」一位に選ばれた。
さらに、「日経おとなのOFF」9月号内の「2011上半期ミステリベスト10」国内編でも堂々の一位になった。
日経おとなの OFF (オフ) 2011年 09月号 [雑誌]

日経おとなの OFF (オフ) 2011年 09月号 [雑誌]

このままいくと、一体「何冠」獲るのか、という感じになってきている。
SF翻訳家で書評家の大森望さんは、ラジオ等で「山田風太郎賞は確実ではないか」と予想された他、「このミス」一位、「週刊文春ミステリーベスト」一位、来年の「日本推理作家協会賞」まで獲れるのでは、と予想されていた。確かに、今は「大きな対抗馬」が出現しない限り、『ジェノサイド』の優位は簡単には崩れそうにない。
他にもまだ獲れそうな雰囲気だ。早川の「ミステリが読みたい」一位も堅そうだし、「ダ・ヴィンチ」の「ブックオブザイヤー」ミステリ部門の一位も確実っぽい。本の雑誌の年間ベストでも一位の可能性が高い。来年の「大藪晴彦賞」などもどうだろうか。
逆に絶対にランキングに入らないのは、「本格ミステリ・ベスト10」くらいのものだろう。
ご存じの通り『ジェノサイド』は、直木賞の候補になって落ちた。だから「直木賞落選作が年間ベストを総なめ」にする可能性だって、充分にある。
それと実は、先日発表の週刊文春「R-40本屋さん大賞」の小説部門では、『いねむり先生』に敗れて二位に甘んじている。



ところで、私はあまり『ジェノサイド』について騒いでいないことにお気づきの方もおられるかも知れない。実は私は本作の2刷目、3刷目あたりの帯に推薦文を寄稿している(多分、4刷あたりからは消えているはずである)。その推薦文に偽りはないし、『ジェノサイド』が傑作であることは認めるが、個人的には、Part1がやや苦痛な読書だったため、全体的な印象が強烈ではなく、あまり「手放しの絶賛」が出来ないクチなのである。もちろん、Part2への伏線にあたる部分だし、ディテールへのこだわりで必要なストーリー展開であることもよく分かるが、実は一度挫折した経緯もあったりするので、これは逆に「上手く読めずに申し訳ない」という感じではある。
Part2はもう、ジェットコースターだ。ものすごい展開が待っている。素晴らしい読書体験になるはずである。そしてページを閉じたとき、考えさせられるはずなのだ。