石持浅海『扉は閉ざされたまま』

扉は閉ざされたまま (ノン・ノベル)

扉は閉ざされたまま (ノン・ノベル)

伏見亮輔はついに新山和宏を殺す機会を得た。準備は完璧だった。その部屋には、さっき飲ませた薬で熟睡している新山がいた。浴槽を湯で満たした。伏見は新山を担ぎ上げ、浴室に運び、頭を浴槽につけた。新山はしばらくの間もがき苦しんだが、やがて痙攣が止んだ。死んだのだ。「薬を飲んで入浴し、そのまま溺れ死んだ男」が出来上がった。伏見はその部屋を去った。内側から鍵が掛かるような細工も完璧だった。密室殺人の完了だ……そこは同窓会の会場だった。参加者の一人、安東の兄が経営している成城の豪華ペンションを、今回は同窓会のために貸しきっているのだ。大学の同窓生6人と、参加者の大倉礼子の妹・優佳の計7人だった。楽しい時は過ぎ、食事のあと各自部屋に一旦戻ることになった。伏見も新山も部屋に入った。さあ、いよいよ密室殺人の決行だ……そして食堂に降りる時間になった。伏見は食堂に行った。みんなもいた。が、新山だけいなかった。当然だ、さっき伏見が殺したのだから。どうせ眠りこけているのだろう、と伏見を除くみんなは楽観していた。だが一人だけ、この状況に疑問を持つ者がいた。優佳だ。彼女は伏見に疑問点を提示した――。
これはとんでもない傑作だ。倒叙形式で、プロローグで「犯行現場」が描かれ、それから本編として、事件前の状況から始まっていく。だから、誰が誰をどうやって殺すかは最初から分かっている。あとは彼がどう追いつめられていくかがポイントなのだが、そこでしっかりとした本格ミステリになっているのにまず感心するし、それ以上に、全体の構成上で実に斬新な手法が使われているのだ。読んでいくにつれ、まさかこれってこのまま……と鳥肌が立って来たのだが、本当にそのままだったのには驚かされた。凄いことをきちんと成立させている。作者の本格へのこだわりがよく分かる作品だ。犯人の動機が説得力にかけるのが欠点だが、あまり重要でないからいいか(いいのか?)。今年の本格ミステリ界の収穫の一つになるのは間違いないだろう。


本作は先月ゲラの形で読ませていただいてました。上の感想はその当時のものに加筆したものです。一部変わっている部分もあるかも知れません。もちろん再読しますので、正式な感想は再読後にログに残します。

佳多山大地、デビュー!

http://www.so-net.ne.jp/e-novels/index.htmが更新されています。
http://www.so-net.ne.jp/e-novels/tokusyu/z010/z010.htmlの第四回目では、評論家の佳多山大地さんが初の小説を発表されています。
「この世でいちばん珍しい水死人」販売ページ
また、探偵小説研究会メンバーによる、「小説家・佳多山大地への期待」も同時アップされています。
今回はモニターサイトとしては協力しておりませんが、この企画全体を盛り上げたいため、ここに紹介させていただきました。