黒水仙(2001年韓国作品)

50年近くに及ぶ長期刑から特赦によって釈放されたソク(アン・ソンギ)。ちょうどその頃、漢江に一人の老人の死体が浮かんだ。捜査に当るオ刑事(イ・ジョンジェ)は死者がダルスという人物であることを突き止め、部屋に残されていた写真から巨済島へ向かった。そこは朝鮮戦争当時に捕虜収容所があったところだった。写真が写されていた小学校で、捕虜を助けていたスパイで「黒水仙」というコードネームを持っていた女性ジヘ(イ・ミヨン)の日記を発見した。そこには、戦争中での様々な出来事が綴られていた……。
朝鮮戦争による民族分断の悲劇。韓国映画によく登場するテーマだが、この映画は「JSA」「シュリ」よりも当時の描写が多い分、悲劇性が高められている。同時に、その歴史的な背景をある程度知っておいたほうがより物語に入り込むことが出来るのだろう。そういう意味で日本人には感動がやや薄いかも知れない。その過去の物語と現代の殺人事件とが絡み合う展開で、イ・ジョンジェがそのパイプ役を果たす。アン・ソンギはほとんど過去のシーンでの出演で、全体的にイ・ジョンジェの映画か、と思っていたら、最後の最後で突然「アン・ソンギのための映画」になる。サスペンスドラマだと思っていた映画が、ラストシーンで突然、50年もの時を隔てたラブストーリーであったことに気付く。
が、褒めどころはそこまで。実は突っ込みどころも多い。アン・ソンギ、イ・ミヨン、チョン・ジュノたちはみんな朝鮮戦争当時と現代を同時に演じており、老け具合がみんな微妙。みんな一体何歳なんだよ、と思ってしまう。また日本人にとっては後半の宮崎ロケはかなり腰砕けになるだろう。一応ミステリ的には重要な手がかりが明らかになる肝の部分なのだが、なんだか日本の2時間サスペンスのロケ作品と似たり寄ったりな雰囲気(BGMまでがそんな感じなのだ!)。宮崎なのに芸者がいたり、地震が起こったりと、おいおい日本人のチェック入れてもらえよ、な場面ばかり。チョン・ジュノが日本人に成り済まして議員までやっている役なのだが、その日本語は「ロストメモリーズ」のチャン・ドンゴンよりもひどい。特典映像のチョン・ジュノへのインタビューによると、彼の役は当初日本人俳優で考えられていたそうだが、そっちの方が良かったように思う。または日本ロケを全くなくすか、どっちかにすれば日本での評価ももっと高かったろうに。