「オール読物3月号」直木賞選評は必読だ!

京極夏彦「赤えいの魚」の段組にも驚かされるが、選評が面白い。特に朱川湊人『都市伝説セピア』に対する評価。選考委員の受けが実にいいのだ。
朱川湊人を最も評価しているのは宮城谷昌光。「もっとも強い好感をもった」「(短編「アイスマン」は)サキの才能に似たものを感じた」など、最も多くの分量を割いて絶賛に近い評価。他の選考委員も、北方謙三「才筆である」、五木寛之「この作家が今後、自分の城をどう築いていくかを楽しみに見守りたい」、田辺聖子「もう一作、拝見したいと思う有望作家」、林真理子「作家の才能は疑いのないところ」、阿刀田高「とてもしなやかなよい筆致だ」、平岩弓枝「ひょっとするとダークホースで受賞になってもいいと考えていた」「次まで待とうという声が出てしまった。残念に思っている」、井上ひさし「「昨日公園」はうまくできている」「凡手には及ばぬ才能があって、これは佳品だった」と、こんなに評価が高いのなら何故受賞させなかったのかが逆に疑問に思えてくるほどだ。経験値不足なのが不利だったか。
朱川作品に否定的だったのは、「眼前におこっていることとしての迫真力を読者に与えるに足る、現実感に乏しい」の津本陽と、「文章のセンスはいいが、怖い話を無理につくりすぎて興を殺ぐ」の渡辺淳一(またこの人か……)くらい。
ともあれ、これだけ評価されたのは朱川湊人にとっても励みになるはずだ。今度候補になったら即受賞になってしまうかも知れない。次が楽しみだ。