パッション

イエス・キリストが捕らえられて裁判にかけられ、十字架で磔にされて死に、3日後に復活するまでを徹底したリアリズムで描いた映画。
キリスト教徒でなくてもある程度は知っている話だが、ここまで真実味を帯びて描かれると凄いというか、イエスが受ける受難の酷さにはちょっと目を背けたくなるほど。その最大のクライマックスは釘で手を十字架に打ち付ける瞬間だが、私のすぐ前で見ていたグループが左右に大きく目を逸らしていた。キリストの受難といえば例えばバッハの「マタイ受難曲」「ヨハネ受難曲」のイメージがあるが、音楽の方がまだ美しく響いているだけマシな気がする。特に敬虔なクリスチャンの人ほど、この映画で受けるショックは大きいだろう。観客から死者が出たという話も頷ける。
個人的にはピラトの役回りが印象的だった。裁判官としてイエスを十字架送りにした悪人、というイメージを持っていたが、この映画では「民衆の声」と「自分の良心」との狭間で悩める人物として描かれていた。
台詞は全編ラテン語アラム語。英語字幕のないところでは日本語字幕も付かない(監督の指示でそうなっている、と最初にエクスキューズが入る)。監督メル・ギブソンもかなり熱心なクリスチャンだそうだが、そのこだわりゆえなのだろう。この映画を観てクリスチャンになる人がいるかも知れない。
死んでから3日後の「復活」があっけなさすぎたのが唯一の不満点かな。