真夜中の五分前/本多孝好

本サイトにも感想を書いたが、実に素晴らしい作品だった。感想を書いておいてこう言うのもどうかと思うが、なるべく予備知識なしに読むことをお奨めしたい。必ずside-Aから読むこと。一応side-Bの帯裏に書かれているが、ものすごーく小さい字なので気付かれないのではないか。
以下にいくつか印象的なピースを。

真夜中の五分前five minutes to tomorrow side-A
本多 孝好

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「醜い生活に疲れた人たちが温泉にやってくる」
「そう。醜い温泉にな。醜い温泉で醜い疲れを癒して、また醜い日常に戻って、せっせと醜くなるんだ。俺がこんなこと言っていたなんて、本当に絶対に誰にも言うなよ。馬鹿みたいだからよ。でも、間違いない。今の世界はクソだ」
 野毛さんはそう言って、また腕時計を手でさすった。顔に浮かんでいるのは、そんなことを言ってしまったことへの後悔ではなく、それを言葉で確認したことから生まれた自己嫌悪のようだった。僕は少し彼が好きになった。
(side-A 93〜94ページ)

真夜中の五分前five minutes to tomorrow side-B
本多 孝好

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映画では、悪人を殺したヒーローが僕ににやりと笑いかけた。
「生き残るための一番いい方法を教えてやろうか?」と彼は言った。
 ええ、是非、と僕は思った。
「死なないことですよ」と彼は言った。
 道理ですいていると思ったらあんたのせいか、と僕は胸のうちで毒づいた。
(side-B 129ページ)