小路幸也『そこへ届くのは僕たちの声』

そこへ届くのは僕たちの声

そこへ届くのは僕たちの声

 植物状態になった人からのメッセージを伝える人がいるという噂。何故か全国各地で起こる、一日だけ子どもを連れ去って翌日には還される中途半端な誘拐騒ぎ。無関係に思われる二つの出来事に共通するキーワードは〈ハヤブサ〉……。早川かほりは、かの震災の時、どこかから「大丈夫だよ」と呼ばれて手を引かれ、気がついたら一日経った状態の家にいたことがあった。あの声に助けられたのだ。それ以来、その声〈ソラコエ〉が聴こえるようになった……。
 どうも上手く要約出来ないのだが、上で書いたものではこの作品の魅力の欠片も伝わって来ないと思う。まだほんの「さわり」に過ぎないのだ。前半はミステリ風に進み、何となく全体像が見えなくてもやもやした状態が続くが、「ハヤブサ」の正体と誘拐騒ぎの真相が見えてからは、子どもたちの絆と成長を主眼にしたファンタジーになる。ここからが一気なのだ。クライマックスはちょっと大掛かりすぎてイメージし難いところもあるが、それでも事の成り行きを見届けると感動する。エピローグの締め方も、とてもいい。
 表紙やタイトルなど、本全体から何かが感じられたので、初めてこの作者の作品を読んだのだが、いい小説だった。実は密かに「ブレイクさせたい」と思っている作品なのだ(ここで書くから「密かに」でも何でもないのだが)。頑張って売り込みます。