市川拓司『その時は彼によろしく』

そのときは彼によろしく

そのときは彼によろしく

ぼくは今29歳で、小さなアクアショップを経営している。恋人紹介システムで知り合った美咲さんとデートを重ねているが、ぼくが話題にするのはいつも佑司と花梨とトラッシュの話だ。13歳の時に知り合った三人は、佑司が隠れ家にしていたゴミ捨て場(彼は「リビング」と呼んでいた)でいつも一緒だった。トラッシュは「ヒューイック?」としか泣かない犬だった。恐らく前の飼い主に喉を手術されたのだろう。ぼくたちが一番輝いていた時代だった――アクアショップの従業員募集でやってきた女性は森川鈴音といった。従業員の夏目くんによると、有名なモデルで女優らしい。でもぼくには、それ以外で彼女にどこか見覚えがあった……。
ああ、こういうのでみんな泣くんだろうなあ、と思わせるような小説だった。確かに物語運びは面白いし、騙りも巧いのだが、「泣かせる要素」をいくつか散りばめて組み合わさったストーリーに見えてしまった。この作家の作品も初めて読んだのだが、他の小説のパターンもなんとなく分かる気がする。
後日談のようなエピローグは、正直要らないのではないかと思った。