角田光代『対岸の彼女』

対岸の彼女

対岸の彼女

小夜子は35歳で既婚。3歳になった子ども・あかりもいて、それなりに幸せな毎日だ。ほんの些細なことから、働こうと思った。同い年の女社長が経営する会社に採用された。クリーニング業なのに本当は旅行会社という、よく分からないところだった。それが楢橋葵との出会いだった……。
現代における小夜子と葵の物語と、その葵と野口魚子(ナナコ)の学生時代の物語がカットバックで語られる。それぞれの状況をリアルに描きながらも、細かなエピソードの数々が淡々と綴られていく。しかしクライマックスで、小夜子が葵にある問いかけをした瞬間、それまでの小さなエピソードの積み重ねの全てがその問いかけに重くのしかかる。瞬時にして物語の風景そのものまでが変わるのだ。そして「友情の姿」について考えさせられる。これは素晴らしい作品だ。直木賞受賞も素直に頷ける。
もちろん、男性よりは女性の方が、共感する部分がより多いのだろうと思う。