佐々木俊介『模像殺人事件』

模像殺人事件 (創元クライム・クラブ)

模像殺人事件 (創元クライム・クラブ)

進藤啓作は旧友を見舞いに病院を訪れた。そこで彼は、大川戸孝平という推理作家が残した文書を渡された。ある殺人事件の記録が書かれているのだが、誰が殺したか、いかに殺したかが問題ではなく、「そこで何が起こったか」を解き明かして欲しいというのだ――大川戸が向かった木乃邸は、当主の木乃光明の他、息子の美津留と娘の佐衣が住んでいた。そこに突如現れた二人の「包帯男」。彼らはどちらも自らを光明の長男、秋人だと名乗ったのだ。一体どちらが本物なのか。だがこれは、この屋敷で起こる惨劇の序章に過ぎなかった……。
全体的に起伏のない文章で、しかも雰囲気は横溝正史を想起させるほど古い。登場人物たちもどうにも姿が思い浮かばなくて読み進むのには多少苦労したが、物語自体は面白い。単純なトリックだろうと思い込んでいたが、いやはやそういう話だったとは。真相が浮かび上がってくると悲劇性が高まってくる。全体的に地味だが、読むと忘れられない作品だろう。