小路幸也『高く遠く空へ歌ううた』

高く遠く空へ歌ううた (Pulp‐town fiction)

高く遠く空へ歌ううた (Pulp‐town fiction)

また死体を見つけてしまった。これで10人目だ。どうやらぼくは死体を見つける特性があるらしかった。学校の寄宿舎でのビギニングウィーク(春合宿)のさなかの出来事だった。10人目の死者は、根本さんだった。2年前に見た9人目の死者は――ところで、ぼくにはあだ名があった。ギーガン。みんながそう呼ぶ。二年生の時、ある事故で左目を潰してしまってから、ぼくの左目は義眼だった。義眼だからギーガンだ。ぼくは泣いたことがない。感情を表に出すことが出来ない……。
全体的にファンタジックな雰囲気が漂う小説だ。舞台も登場人物たちも現実的なのに、物語はどこか「別の世界」な感じ。だから、地に足がついているようなついてないような、不思議な感じで読み進むことになる。事件も、それが事件なのかすら分からないような展開を見せる。事件を追うのがメインではなく、ぼくとその周辺の話が中心だ。結末で突然、事件の真相がミッシングリンクものだったことが分かる。やや唐突すぎる気もするけれど、実はこの小説の肝はそこにはない。その直前の、ぼくが××場面こそが重要なのだ。ルーピーや柊さんなどの人物造形もいい。和んで読みながらも、胸に何かが残るような小説だ。