大倉崇裕『やさしい死神』

やさしい死神 (創元クライム・クラブ)

やさしい死神 (創元クライム・クラブ)

雑誌「季刊落語」の牧編集長と間宮緑のコンビが落語界の事件・トラブルを解決していくシリーズで三作目。寄席にいた「まったく笑わない男」と家で倒れた師匠が残した「死神にやられた」のメッセージの謎「やさしい死神」、寄席の向かいの書店に何故か相次ぐ救急車を呼ぶ悪戯電話……「無口な噺家」、かつての同級生から結婚式の司会を頼まれたが、その当人は8年前に死んでいた……「幻の婚礼」、落語中に突如響く観客の携帯着メロに激怒して落語を途中で止めた師匠。だが着メロを鳴らした本人は後援会会長で、携帯の電源は切っていたと主張して……「へそを曲げた噺家」、弟子が「紙切り」に魅力を感じた途端、師匠から「破門」の声が……「紙切り騒動」の5編。
落語の演目で登場するネタが実際の事件に絡んでくる、そのあたりの見せ方は相変わらず巧い。特に「無口な噺家」と「へそを曲げた噺家」はミステリとしても完成度が高い。「紙切り騒動」は展開がほぼ完全に読めてしまったけれど、最後の一行の「オチ」でいい話としてまとめられている。しかし全体として「巧いけれど、何か突き抜けたものが欲しい」のも事実。妙に「こなれた」だけの作家で満足して欲しくないので。さあぜひ『無法地帯2』を!