太田忠司『月読』

月読(つくよみ) (本格ミステリ・マスターズ)

月読(つくよみ) (本格ミステリ・マスターズ)

月読(つくよみ)。それは、死者の思いが託されてその場に遺ったメッセージ――月導(つきしるべ)――を読み解く特殊能力者。月導は、はっきりと目に見えるオブジェであったり、匂いや気温の変化など、人間の五感に訴えるものであったりする……刑事の河井は、とても嫌な事件の捜査をしていた。連続婦女暴行殺人事件だが、今回の被害者・片山由香子は彼の従妹だったのだ。その現場であるマンションの扉には、彼女の「月導」が遺されていた。それを、隣の部屋の住人が見ていた。朔夜一心と名乗った。どうやら月読らしい。月導から、由香子が正田という男を恐れていたことを読み取ったらしい……絹来克己は、月導と月読に興味をおぼえていた。そんな折、同じ学校の香坂炯子と知り合う。お嬢様で知られる彼女だが、その後彼らは、ある事件に大きく関わることになる……。
これも上手く粗筋をまとめ難い作品だ。刑事側の視点で描かれる事件と、少年の視点で描かれる青春小説風ミステリが、少しずつ(主として人物名で)絡み合ってくる。ベースにあるのは、月導、そして月読。二つの物語が交差しながら盛り上がるレトリックに、読んでいる方も興奮がピークになる。SF的設定を使っている割に、真相部分でえらく古典的な題材が登場するのにはちょっと辟易してしまうが、それまでの伏線が全て回収されて素晴らしい。月読に関するある「トリック」はちょっと分かり難かった(というか、イマイチ効果的ではない?)のが残念。克己パートは青春小説としての完成度が高く、これだけでも充分面白い。炯子に萌えることだって出来る。ラノベ読者にもお薦めだ。