田代裕彦『キリサキ』

キリサキ (富士見ミステリー文庫)

キリサキ (富士見ミステリー文庫)

俺は死んだ。三途の川に、案内人(ナヴィ)がいた。ナヴィは、俺が死ぬべき時ではないのに死んでしまった、と言った。そして気がつくと――俺は女の子になっていた。ナヴィが俺を蘇らせてくれらしい。霧崎いづみというこの女の子は、自殺未遂をして記憶喪失になっている、らしい。俺は霧崎いづみとして生活を始めた。学校ではどうやら「いじめ」の対象になっていたらしく、杉山理恵たちに陰湿ないじめに遭った。だが俺は、理恵たちの「秘密」を掴み、それをネタに逆襲することにも成功していた。ところが週明け、大きな変化が起こっていた。理恵が何者かに殺されたというのだ。今この近辺で騒がれている連続女子高生殺害犯、通称「キリサキ」に殺されたらしい。そんな馬鹿な。ありえない。何故なら、俺こそが――「キリサキ」本人だったからだ。新たな「キリサキ」は一体誰なのか……。
「平井骸惚此中ニ在リ」シリーズとはうって変わって、現代もの、それも奇妙な設定のサイコサスペンス風なミステリである。設定の勝利、とも言うべきで、これだけで面白さが保証されたようなものだ。真相部分がさらに輪をかけて面白くなる(おお、そんなネタが登場するとは! このタイプの小説に弱いのよねー)のだが、観念的な話とかが絡んできてちょっとプロットが複雑になっていて分かり難いか。竹を割ったように単純明快に持っていければ素晴らしい傑作になっていたと思うのだが。惜しい作品だ。