光原百合『最後の願い』

最後の願い

最後の願い

度会(わたらい)恭平は「劇団Φ」の代表兼演出家兼俳優。もっとも劇団はこれから立ち上げるのだが。劇団に相応しいメンバーを集めるために東奔西走、そしてその過程で巡り会う人々と不思議な「謎」――。各短篇で脚本家・俳優・舞台監督など様々な人材が集まって、最終話で無事旗揚げ、めでたしめでたし、が基本ストーリー。謎はいわゆる「日常の謎」系なものが多いが、誰と寝たとか寝ないとか不倫だとか、生々しい題材が頻繁に採り上げられており、今までのただ爽やかな作風から一歩踏み込んだ印象だ。それと「演技」が重要なキーになる作品も多い。以下にミニコメ。
「花をちぎれないほど…」人の心は難しいねえ。私はこんなに「裏」を読み取れないよ。あ、だから俺ってまだ独……ゴホゴホ。
「彼女の求めるものは…」謎のリサーチに謎の電話、出会った女性の謎のアリバイ調査。謎はさらに後へ続く。
「最後の言葉は…」個人的にはこの短篇集中でベスト。感動的でいい話だ。
「風船が割れたとき…」小学校のミュージカルと卒業式にまつわる小さな謎。私はこの「犯人」の気持がよく分かるなあ。
「写真に写っていたものは…」20年も使われていない洋館と写真を巡る悲劇。哀しい物語だが、その後に小さなサプライズも用意されている。
「彼が求めたものは…」「彼女の求めるものは…」の後日談。いい人情話になっている。
「…そして、開幕」ついに旗揚げ公演、の小劇場でかつてあった事件と幽霊騒動。事件も丸く治まって大団円。