津原泰水『赤い竪琴』

赤い竪琴

赤い竪琴

きっかけは祖母が遺した詩人の日記だった。寒川玄児は戦前に活躍していたが戦死した夭折の天才詩人で、彼の日記を祖母が持っていたのだ。それを遺族に返したかったのだが手掛かりがなく、ようやくで見つけたのがルーマニア料理店「ラ・オクタヴ」。ここに寒川氏の孫が来ている、とHPの日記に書かれてあったのだ。入栄暁子はその店に行った。そこに当の孫がやって来た。寒川耿介との出会いだった――。
大人の恋愛小説だ。著者の傾向からして、幻想の世界に引き擦り込むのではないかとか、どこかで突然死体がゴロンと転がるのではないかとか思っていたが、そのような小道具を一切使わない、実にストレートでピュアな恋愛小説だった。読んでいるこっちが恥ずかしくなるくらい(「目覚めたとき、私はすっかり恋におちていた。」―72ページ)。二人は何となくつかず離れずの付き合いが続くが、ちゃんと理由があることが判る。それを乗り越える(乗り越えているのか?)二人の愛、そしてそこに重なる寒川玄児の言葉。ああ、こういう恋の形もあるのだ。美しい文章に浸りきる小説である。