松尾由美『雨恋』(ややネタバレ気味なので注意)

雨恋

雨恋

その年の五月に失恋し、気分転換に引っ越したいと思っていたぼくの元に、叔母が住んでいたマンションがしばらく空くから住まないか、と母から提案があったのが、思えば全ての始まりだった。叔母さんに猫の面倒も頼まれたものの、ぼくは快適な日々を過ごすはずだった。ところが雨の日、この部屋に女性の気配を感じた。かすかな笑い声まで聞こえ、なんだか猫も楽しそうにしているようなのだ。と、その人がぼくに語りかけた。姿は全く見えない、つまりは「幽霊」なのだ――彼女は小田切千波と名乗った。3年前にこのマンションで死んだらしい。表向きは自殺ということになっており、彼女自身も確かにその時自殺しかけていたのだが、自殺を諦めたところで何者かに殺されたと主張するのだ。その犯人が誰か分からないから納得できず、そのため幽霊として残されているのではないか、と千波は言った。千波がぼくと会話できるのは雨の降る日だけ。ぼくは彼女のため、事件の真相を探ることにした。
もっと恋愛恋愛した小説かと思っていたが、設定が奇妙なだけで、普通にミステリとして楽しめる。当時の真相が少しずつ判明するたびに、千波の姿が、足だけ→腰から下→首から下、という具合に少しずつ見えてくるというのが、えーこれって大真面目で書いてるんですか? 的なトンデモ設定。足だけで部屋をうろつかれてもなあ、と想像すると変なのだが、姿が見えてくるにつれて、渉(ぼく)の中で彼女に情が移ってくる。読み進むうち、ミステリ的なところはどうでもよくなって来て、恋愛小説の要素が大きくなっていくのだ。このあたりの展開は上手い。果たして事件の結末と恋愛の結末は……となるところで、なにかと話題のラスト2ページ。衝撃とか泣けるとか言われているけれど、初めからこうなることは判っている落とし方じゃないだろうか? まあ多少感傷的にはなるけれど、うーむ。じゃあ不満なのかと言われると、これが面白くて大満足なわけで。SFと恋愛小説とミステリが上手くブレンドされた小説だと思った。
ところで海燕さんオフのメイドカフェにて、ごく一部の方にこの本を見せて、「普通の恋愛小説だけどラスト2ページで本格ミステリになるらしいよ」とか喋っておりましたが、全然違っておりましたので訂正させていただきます。