東野圭吾『黒笑小説』

黒笑小説

黒笑小説

『怪笑小説』『毒笑小説』に続く、ブラックユーモアをかなりまぶした短篇集。特に文壇の内幕・内情を描かせると「本当にここまで書いていいの?」と思わせるほどブラックさが増す。文学賞の選考会を待つ「もうひとつの助走」(もちろん筒井康隆『大いなる助走』のパロディタイトルである)、新人賞を獲った作家と編集サイドの激しい温度差を描いた「線香花火」、その翌年の新人賞パーティーにまた現れたその作家と編集のさらなる温度差「過去の人」、文学賞の選考会の裏に待ち受けるものは……の「選考会」の4作はもう爆笑の嵐だ。もちろんこのシリーズ以外の作品も面白いが、ワンアイデアだけで押し切った作品も多く、全体的に毒気はやや少ないか。インポになる薬が不思議な効果を生み出す、山田風太郎エログロナンセンス作品を連想させる「インポグラ」、自分を振った彼女が何故か「ストーカー」として追いかけてくれることを望む話から予想外なオチに展開する「ストーカー入門」、アニメのヒロインに夢中の娘にグッズを買わされる父親の話から、父親にとって哀しいオチが待ち受ける「臨界家族」などが印象的だ。