朱川湊人『さよならの空』

さよならの空

さよならの空

20世紀末、南極上空に発生したオゾンホールは21世紀になっても拡大を続け、さらに世界各地に「動く」オゾンホールが発生し始めた、このままでは人類に危機的ダメージを与えることになる。そのために、オゾンホールの拡大を食い止める画期的な化学物質〈ウェアジゾン〉が発明され、各地に散布された。だがそれは「夕焼けを消す」という思わぬ副作用を生むことになる。世界中から夕焼けがなくなっていくのだ……〈ウェアジゾン〉の発明者テレサは、「ある目的」のため、秘密裏に来日していた。彼女はそこで、いつも笑い続ける少年トモル――テレサには一瞬「トゥモロー」と聞こえた名前だった――と、謎の青年キャラメルボーイと出会い、行動を共にすることになる。一方、夕焼けが消えることを拒む人物がいた。世界から夕焼けを奪うものを、決して神は許さない、「イエスタデー」と名乗る人物は、テレサへの脅迫文を全世界にメール配信したのだ……。
「夕焼け」は、ノスタルジーを誘う現象だ。夕焼けが消える、というプロットをどう展開させていくか期待しながら読んだのだが、一部哀愁を漂わせるシーンもあるものの、いろんな要素が同時進行で絡んでいくため、一つ一つに感情移入し難く、全体的に中途半端な印象を受けた。「イエスタデー」のパートをもう少し他の部分に馴染ませて、動機部分を膨らませれば違和感が減ったと思うのだが。クライマックスの「あの現象」も唐突すぎるのでは。歯車の噛み合わせ方に失敗しているのではないだろうか。勿体無い作品だ。