横田増生『アマゾン・ドット・コムの光と影』

アマゾン・ドット・コムの光と影

アマゾン・ドット・コムの光と影

その実態がほとんど業界内に伝わらないまま、いつの間にか年間総売上が1,000億に届く勢いにまで成長したアマゾン・ジャパン。一店舗も持たないネット書店が、今や紀伊國屋書店丸善に匹敵するほどの存在になった。そんなITビジネスの先端を突っ走っているように見えるアマゾンを影で支えているのは、実は「物流センター」で働く数百人ものアルバイトたちの人海戦術なのだ……実際にアマゾンの物流センターで半年間アルバイトとして働いた著者による潜入ルポ。物流センターでの仕事は本の素人でもできる機械的作業だが、スピードのみが要求される世界。しかも時給は900円から全く上がらず(後に850円に下がる)、契約も2ヶ月ごとに更新され、保険もつかない。まさに「働きアリ」状態らしい。バイト一人一人を完全に監視しているからこそ、効率的に運営でき、1,500円以上で送料無料にしてもやって行けるのだ。ネット書店はPCだけでの世界ではなく、実務レベルに降りると多くの人々の労働が支えていることを改めて思い知らされる。ところで著者がバイトを辞める直前に目にする「BOOKOFF」という仕入れ先コードは一体何を意味するのだろう。
以下の2箇所の文章が、この本で書かれていることを集約しているように見えるので、引用しておく。

 働く場所としては、アマゾンのことをこれ以上ないくらい嫌悪しながら、同時に利用者としてアマゾンのファンであるという矛盾した気持ちが同居している。予期していなかった展開であるが、動かすことのできない事実である。
(238ページ)

 たしかにインターネットの普及でわれわれの生活は便利になった。家にいながらコンピュータの前で〈ワンクリック〉するだけで、二、三日後にはたいていの本が自宅に届くのだから。
 しかし忘れてはならないのが、〈ワンクリック〉するたびに、その商品を探して物流センターを走り回るアルバイトが存在するという事実である。
(275〜276ページ)