奥田英朗『サウスバウンド』

サウス・バウンド

サウス・バウンド

上原二郎は小学六年生。父は上原一郎という名前だ。一郎と二郎なのに親子と言う変な親子だが、父は元・過激派で今でもアナーキストだ。先生などといった公務員は「官の手先」として敵対視しており、何かと言うと学校に現れては問題を起すので二郎は大嫌いだ。一方の二郎は漫画や女の裸に興味があったり、夢精をした、しないで盛り上がっている日々を過ごしていた。ある日、クラスの女の子の誕生日会に二郎たち男子も何人か招待された。ちょっと不良っぽい黒木もいた。女の子たちの興味は黒木にあるようだったが、中学生のカツたちのグループとつるんでいる黒木は二郎たちからお金を巻き上げてカツに渡していた。二郎たちはさらに多額のお金をカツに要求された。不良中学生と地雷みたいな父の間で板挟みにあった二郎は、突発的に家出を決行したが……。
元・伝説の闘士の息子として産まれた少年の成長物語。独特の思想に振り回されながら、子供たちの領域を生き抜く二郎とその周囲の子供たちの青春群像として、前半はとても面白い。実は本作は二部構成で、第一部はカツに立ち向かう二郎たちの物語として素晴らしい(特に後半の黒木の姿がいい!)のに、第二部でいきなり上原一家が沖縄の離島に引っ越してしまう。そこから、どうにものんびりと話が進んでしまう。「北の国から」ならぬ「南の国から」か、または椎名誠の世界そのままなのだ。えーこのまま終わっちゃうの? と戸惑っていたが、その島にリゾート開発の動きが出て、それに父が反抗し始めるあたりから、俄然面白くなる。ここに来てようやく、第一部で散々見せられてきた父の妙な思想・言動が、具体的に力を帯びてくるのだ。ただの「ヘンな外国人」と思われていたベニーさんの意外な活躍とか、校長先生とか(校長先生の朝礼の話が素晴らしい!)、新垣巡査とか、いいキャラクターが満載で、いつの間にか読んでいるこちらまでが父・一郎を応援しているのだ。そんな父を見ながらまた一歩成長する二郎の姿が眩しい。いやはや参った。参りました。素晴らしい小説でした。やっぱり奥田英朗は最高だ。これで直木賞取れば良かったのに。
(この感想はプルーフを読んだ時のものです)