伊坂幸太郎・石田衣良・市川拓司・中田永一・中村航・本多孝好『I LOVE YOU』

I love you

I love you

 男性作家による恋愛小説アンソロジー。版元も「創立35周年記念出版」と満を持して出すだけあって、執筆陣・作品のレベルともにかなり高く、読み応えがあるものばかりだ。私は恋愛小説は読み慣れないので、起伏のない物語に不満を覚えたりすることもあるものだが、これはどれも楽しめる小説になっていた。好きな作家が一人でもいれば読んで損はないだろう。以下ミニコメ。
伊坂幸太郎「透明ポーラーベア」:恋愛小説というよりはファンタジーに近い。が、語り口はいつもの伊坂幸太郎てある。ラストシーンに思わずニヤリ。
石田衣良「魔法のボタン」:うわっ、ベタやなあ。あまりにもストレートすぎる「告白小説」だが、くすぐったくなるような小説だ。
市川拓司「卒業写真」:このアンソロジー中、唯一の女性視点。相変わらず「初恋の人が忘れられません」的な小説を書くのだなあ。
中田永一「百瀬、こっちを向いて」:何かと噂の、謎の作家。だが実は、これが最も素晴らしいのだ。擬似恋人を演じる、というプロットからしてもう切ないし。
中村航「突き抜けろ」:木戸さんのキャラクターがいい。青春小説的な要素が強いが、何かが残る作品だ。
本多孝好「Sidewalk Talk」:離婚しようとする二人の会話、だけの話なのだが、ラストで突如、感情が込み上げる。ラスト1ページがとてもいいね。
(この感想はゲラ、プルーフを読んでのものです)