あさこあつこ『福音の少年』

福音の少年

福音の少年

高校生の永見明帆、明帆と付き合う北畠藍子、そして藍子の幼馴染みで同じアパートに住む柏木陽。三人を軸にした青春小説は、アパートの火事をきっかけに一変する。藍子は火事で死亡、陽は偶然にも明帆の家に泊まっていたため難を逃れた。ただの火事だと思われていたが、フリーライターの秋庭から、火事が「事件」だと知らされる。そしてその標的は藍子だったと……。
これは問題作ではないか。いや、前半は本当に素晴らしい。さすが『バッテリー』で数多くの読者を魅了しただけあって、少年少女の描写が活き活きとしている。だが後半で突如ミステリ風味になる。そして、「二人の知らない藍子像」が浮き彫りになる。そこがなあ……ええー、そんなに古臭い設定なのか? それでいいのか? クライマックスもある程度盛り上がるが、またベタなネタ使うなあ。こんなにチープな話を著者は「本当に書きたかった作品です」と言うのか? うーむ。これを『バッテリー』を読んできた子どもが手にしたらどうなのだろう。乱歩の少年探偵団シリーズを読み親しんだ子がふと手に取った大人ものが『陰獣』だった、といういわゆる「乱歩体験」に近い状態になるのではないか。どうにも腑に落ちない。こんなんで著者は満足なのか。著者をこんこんと説教したくなった。婦女子方面にはいろいろと萌えるシーンがあるのだろうか。
(この感想は発売前のプルーフを読んでのものです)