小路幸也『ホームタウン』

ホームタウン

ホームタウン

柾人が働いているのは北海道の百貨店の「特別室」――内偵のような仕事だ。ある日、五年前から別れたままで現在〈ディスプレイデザイナー〉という仕事をしている妹・木実から珍しく手紙が届いた。結婚するという。しかも相手は柾人のいる百貨店の旭川店にいる青山という男だ。柾人は上司で親代わりでもあるカクさんにそれとなく素性調査をしてもらったが、特に問題はないようだった。彼なら、木実の心の底にあるはずの「苦しみ」を取り去ってくれるはずだ、そう思っていた。そんな折、木実の友人が柾人の元にやってきた。木実が行方不明だというのだ。しかも青山も長期で病欠しているという。裏には何かあるのではないか。柾人は手掛かりを探るため、故郷へ向かった。柾人にとっても木実にとっても、決して戻るはずのなかった土地へ……。
トラウマを抱えた主人公、たった一人の肉親の失踪、個性的かつ「いい人」な登場人物たち、事件の向こうに待ち受ける感動などなど、どのページからも「これはいい話ですよ、泣ける話ですよ」オーラが出まくっている作品。もちろんその期待は裏切られないし、泣ける話に仕上がっているが、ちょっとプロットがベタ過ぎて物足りなく感じたのも事実。それでもリーダビリティーは新作ごとに間違いなく向上しているし、面白さも安定しているので、小路作品の入門には本作あたりが最適だろう。