西澤保彦『腕貫探偵』

腕貫探偵 市民サーヴィス課出張所事件簿

腕貫探偵 市民サーヴィス課出張所事件簿

「市民サーヴィス課臨時出張所」なる張り紙と共に、簡易机に座っている銀縁眼鏡の男。いかにも役人風、しかも腕には黒い腕貫までしている。話しかけようとした主人公に、黙って「利用者氏名一覧表」を示し、これに書いて順番を待てと言うのだが、三脚のパイプ椅子には誰にも座っていない。それでも待てというので椅子に座ると、しばらくして名前を呼ばれ、主人公の身に起こったちょっとした事件(場合によっては本当に大変な事件)の話をさせられる。全てを聞いた腕貫男はたちどころに全てを見抜く……というような展開で書かれた連作短篇集。探偵のキャラクターとユーモア性が重視されていて、探偵が凡人キャラなら面白味も半減していることだろう。同じ市内なので行動範囲も狭く、全て別の事件だが一部登場人物が被る趣向もある。停留所のベンチで死んでいた男がいつの間にか自分の部屋に移動していた「腕貫探偵登場」と、二十年前の大学の学生証が家の押入れから大量に出てきた謎「喪失の扉」、トイレで殺されていた女性は、お金を持っていたのにレストランで何も食べなかった……の「すべてひとりで死ぬ女」あたりが論理性もよく出来ていると思う。ただ「喪失の扉」は全体の雰囲気が『パズラー』収録の「蓮華の花」に似ている気がするが。