東川篤哉『交換殺人には向かない夜』

交換殺人には向かない夜 (カッパノベルス)

交換殺人には向かない夜 (カッパノベルス)

私立探偵・鵜飼は、善通寺咲子という女性から依頼を受けた。夫である画家・善通寺善彦が、就職活動のため下宿に来ている遠縁の娘・遠山真理子と浮気をしているようなので、使用人として潜入調査をしてくれというのだ。一方・鵜飼の弟子の戸村流平は、以前の事件で知り合った十乗寺さくらから、旅行に付き合って欲しいという依頼を受けていた。鵜飼は探偵事務所のビルのオーナーで事務所のオーナーも勝手に名乗っている朱美を連れて善通寺邸へ、戸村とさくらは八ミリカメラを購入して「ひまわり荘」――さくらの友人で元・女優の水樹彩子(本人によると今も女優らしいが)の別荘だ――へ向かった。そして雪の降る夜、烏賊川市街の路地で発見された女性の死体……。二つの場所で起こる事件の真相は一体何なのか、路地の死体との関連性は? そして「交換殺人」とは?
デビュー作から続いている「烏賊川市」シリーズ。交換殺人がテーマらしいが、それを匂わせる記述はプロローグだけで、本編に入ってからはどんな事件が起こるのかも全く読めない(そう言われれば交換殺人ものは倒叙形式がほとんどだ)。いつもの緩いギャグに辟易しながらもったりと読み進むことになる。どんなにギャグセンスがダメダメでも、不思議と腹が立たないのは、確信犯だからだろうか。ところが真相に至って、そんな緩い展開のあらゆるところに巧妙に伏線が隠されていたことに驚かされる。一歩間違えばアンフェアと思われそうなアイデア(それも一つや二つではない)を、ギリギリのところで上手く処理して見事に融合させることに成功している。うーむ、考えれば考えれるほど上手い。ただ、『館島』に見られたような派手なものがないので、その職人芸を楽しむような作品かも知れない。