中編3編と掌編1編の計4編からなっているが、典型的な誘拐ものの「
助教授の身代金」、クリス
ティー作品をそのまま日本に移殖したような展開の「ABCキラー」、ホームパー
ティーでの乾杯の直後に毒殺事件が起こるというのがベタすぎるほどベタな「モ
ロッコ水晶の謎」と、中編作品はどれもあまりにもオーソドックスな話だ。しかしそれぞれに新しいア
イデアが投入されていて、解決編で唸らせるのはさすが。とりわけ表題作のメインア
イデアは近年の中短編の中でも突出して素晴らしいのではないか。ロジック重視の作家であればあるほど、この手のネタは避けるはずなのに、それを堂々と使ってしかも読者を納得させることに成功している。残る「推理合戦」も、短い中にもユーモアが効いていて面白い。すっかり安定した実力を持っていることがまた確認できたが、願わくば「モ
ロッコ水晶」クラスの「殻を破った」作品を次々と繰り出していただければなあと思う。