レオ・ブルース『骨と髪』

骨と髪 (ヴィンテージ・ミステリ・シリーズ)

骨と髪 (ヴィンテージ・ミステリ・シリーズ)

探偵キャロラス・ディーンが依頼を受けた事件は実に単純な構図に見えた。夫が妻を殺して死体をどこかに隠して逃げた、それだけのことだ。だが捜査をしていくにつれ、奇妙な状況が見えてきた。夫妻と付き合いのあった関係者たちの、行方不明の妻アンの容姿に関する証言が食い違うのだ。どう考えてもアンは二人もしくは三人いたとしか思えなかった。しかも前に住んでいた場所でも今回と同じような噂(夫が妻を殺して逃げた)が流れていた。夫ラスボーンは恐るべき連続殺人鬼なのか、それとも……。
事件そのものは簡単そうに見えるのに、調べるほど辻褄が合わなくなっていく展開は興味深いが、小説がやや単調で中盤までは退屈してしまう。しかし解決編でいきなり眼が醒める。それまでのもやもやが一気に晴れるのだ。まあ現代からするとさほど新しい趣向ではないし、結末が読める人も多いだろうが、この「構図の逆転」(このくらいならネタバレではないと思うので書いた)は、本格ミステリならではの味わいだ。このような作品を踏まえてこそ、本格は進化したのだと思う。傑作とは言えないかも知れないが、重要な作品ではある。解説ではシリーズキャラクターのユニークさが強調されているが、翻訳数が少ないのでなかなか実感できないなあ。