島田荘司『摩天楼の怪人』

摩天楼の怪人 (創元クライム・クラブ)

摩天楼の怪人 (創元クライム・クラブ)

1969年。コロンビア大学助教授だったキヨシ・ミタライは、病床にある往年の大女優、ジョディ・サリナスから「挑戦状」を突きつけられた。1921年10月の夜、停電があった間に、この高層アパート「セントラルパーク・タワー」の1階にいたプロデューサーを射殺したというのだ。停電はわずか15分間だったが、その間に34階に住んでいた彼女が1階まで降りて殺してまた昇って来ることは不可能だったはずだ。それを可能にしたのは「ファントム」の力だったとジョディは言い、さらに「ファントム」のおかげで邪魔者が次々に死に、そのおかげで自分の現在の地位があるのだとミタライに告げ、その謎を解いてみよと言い残して世を去った。このビルではその事件の前にも、時計塔を使った奇怪な処刑殺人や、ハリケーンの夜にビルの窓ガラスがほとんど割れて建築家が死んだ事件などが起こっていた。全てはジョディの言う「ファントム」の仕業だったのか?
御手洗潔がまだ石岡と出会う前の事件(36年も前の事件だ)。今日の休みをまるまるこの一冊に費やしたと言っていい。なんか悔しいけれど、これが面白い(なんで「悔しい」感情が湧くのかがよく分からない)。相変わらずリーダビリティは最高で、読み始めたら止まらない。そして今回も奇想の嵐。これらを現実のものにするため、解決編ではかなり強引に持って行かされている気がするし、「それはいくらなんでも……」と思うところも一つ二つではない(犯人像など)のだが、島田荘司の圧倒的な筆力に捻じ伏せられているのだ。よくもこれだけいろんなトリックを押し込んだものだ。挿入されているCGは図版の代わりにトリックの説明として使われているので、特に後半のCGは先に見ないように。御手洗シリーズならこんな大法螺でも許せる、というか、このくらいのハッタリをかましてくれないと満足できないね。