蒼井上鷹『九杯目には早すぎる』

九杯目には早すぎる (FUTABA・NOVELS)

九杯目には早すぎる (FUTABA・NOVELS)

小説推理新人賞受賞から、単行本が一冊も出ないうちに推理作家協会賞の短編部門で候補になった作家の、これが初単行本。5編の短篇集に4編のショートショートが挟まれた構成になっている。ショートショートはどれも軽い作りだが(そのうちの一作を短篇集のタイトルにしているのが不思議といえば不思議。ミステリファンなら『九マイルは遠すぎる』を連想するだろうという計算からか)、短編がなかなか読ませる。軽妙な語り口と奇妙な展開にニヤニヤしていたら、突然予期しない方向から剛速球が飛んできた、というイメージだ。謎の設定は最初の「大松鮨の奇妙な客」が分かりやすい(寿司を茶碗蒸しにぶっかけて食べる客の謎)し、その真相も実に意外で面白いが、個人的には「私はこうしてデビューした」が好きだ。ベタな話かと思っていたら、おっとそんな真相だったとは。しかもオチが笑える。あとはキャラクター造形が上手くなれば、どんどん面白く化けそうな作家だと思った。今後にも期待したい。