田代裕彦『シナオシ』

シナオシ (富士見ミステリー文庫)

シナオシ (富士見ミステリー文庫)

僕は死んだ。かつて大切な人を失った僕は、その人を殺した「あいつ」を復讐のため殺す計画を立てていた。そして5年後、ついに復讐は果たした――はずだった。だが僕は、その犯罪を後悔していたのだ。そして僕も死んだ……目の前に死神がいた、いや、「ナヴィ」が立っていた。僕にはまだ「寿命」が残っているらしい。再び別の肉体を借りて過去に遡り、僕の犯罪を止めさせることになった。僕は人生をもう一度やり直す者――「シナオシ」として生まれ変わった。そして《僕》は少女に、《私》になった。
『キリサキ』に続いて、タイムスリップ要素を含んだミステリである。《私》として蘇った《僕》は、かつての《僕》が誰なのかを知らないので、まず《僕》を探さなければならないところから始まる。しかも《僕》による殺人を阻止するのが目的なので、事件が起こる前に、犯人になる予定の《僕》を特定しなければならないのだ。このアイデアは秀逸だと思った。ただし、解決編でテンションが落ちてしまう。すごくよく考えられているのは分かるのだが、『キリサキ』同様複雑すぎて、正直言って真相などどうでもよくなってしまうのだ。この種のトリックの見せ方を間違えているような気がする。もっと単純明快にした方が受けると思う(単純明快にするとネタが割れやすいリスクはあるだろうが)。全体構造は、フランスのミステリ作家の某有名作品を想起させる部分があって好感は持てる。『キリサキ』も『シナオシ』も、ベクトルがほんの少しずれているだけのように感じるので、そこが修正出来ればすぐに大傑作が生まれるに違いないのだ。