連城三紀彦『戻り川心中』

戻り川心中 (光文社文庫)

戻り川心中 (光文社文庫)

講談社文庫版にて再読)
名作である*1。かの文春文庫『東西ミステリーベスト100』で国内編9位になったことが最初に読むきっかけ*2で、当時はそれはそれは衝撃を受けたものである。恋愛小説風な物語の中に、逆説の論理をふんだんに取り入れたトリックが見事なまでに決まっている。最近の連城作品は、現代の複雑な恋模様をベースにしているためか、心理描写が込み入っていて読み難いことこの上ない(それさえ我慢すればトリッキーな作品世界に浸れるのだ)が、この短篇集は大正から昭和初期が舞台なので、その辺りが判り易いだけ物語に入り込める。恋愛小説としては「桔梗の宿」が最高だと思っているが、「桐の柩」と「藤の香」も今回読み返して素晴らしいと思った。しかもトリックも凄いから参ってしまう。表題作「戻り川心中」は天才歌人・苑田岳葉の恋に溺れた人生と短歌を織り交ぜながらも、ラストでその印象をガラリと変えてしまう絶妙な作品。「白蓮の寺」は仕掛けそのものがトリッキーすぎるからか、そのネタに合わせるためにやや無理をしている感じがしてしまった。それはそれで凄いことをやってのけているのだが。
連城の初期作品は、新本格作家たちが「目標」にしていたといっても過言ではないものばかりで、現代の視点で読むと「このくらいなら××でも書いているよ」と言われそうだが、今読んでも素晴らしいことに変わりはない。彼らの源流の一つがここにあるのは間違いないからだ。またここでお決まりの文句を書いてしまいたい。「騙されたと思って読んで欲しい」と。

*1:日本推理作家協会賞受賞作。直木賞候補作。

*2:ベスト10に古典作品が並ぶ中、唯一入っていた現代作品(当時)だった。