鯨統一郎『パラドックス学園 開かれた密室』

パラドックス学園  開かれた密室 (カッパ・ノベルス)

パラドックス学園 開かれた密室 (カッパ・ノベルス)

『ミステリアス学園』の湾田乱人(ワンダ)は、その部屋に入った。ここは「パラドックス学園」の「パラレル研究会」、通称「パラパラ研」だった。どうやらパラレルワールドに迷い込んだらしいのだが、部員はドイル、ルブラン、アガサ……部長はポー、そして新入部員にカーとフレデリックとマンフレッド……なんと周りはみんな、ワンダが知っている著名なミステリ作家たちと同一人物だったのだ。しかも何故かみんな同じ大学生だ。それにどうやら、この世界では「ミステリ小説」なるものが存在せず、まるでミステリ小説のような事件が日常的に起こっているのだ(日本では、奇怪な館を舞台にした殺人事件が続発しているらしい)。彼らはこれからミステリを書くことになるのか、と気付いたワンダは入れ知恵をカーに与えた――が、そのカーがシェルターの中で密室状態で殺された。アルテ学園長、ラヴゼイ副学園長、ニコラス刑事、検死官のスカーペッタらが捜査にやってきた。
鯨統一郎にはいつもげんなりさせられて、「またしょーもないもの書きやがって」と毎回毒づくのだが、今回は悔しいけれど面白い! いや、しょーもないのはいつも通りなのだが、初めから荒唐無稽な設定なので許せてしまうし、その設定も笑えるのだ。残念ながら、「(今まで)存在しませんでした」と書いている犯人像には複数の前例があるし、メイントリックも某有名作品に酷似しているので、大きな減点になってしまう。のだが、ただの小ネタだと思われていた「××××××」までトリックに組み込んでいるのもまた笑ってしまった。ラストでは(これは書いてもいいと思う)、世界的ミステリ作家たちがこぞってパラパラを踊っちゃうのだ! こういう乗りで和みたいから、懲りずに鯨統一郎を読み続けているのだろう。傑作などとは口が裂けても言えないが、バカバカしいほど面白いことだけは保証しよう。
どうしようもなく笑えるシーンは数え切れないが、うち一つを引用させていただく。これからシェルターに入ろうとするカーと、鍵を渡すルブランの会話だ。

「どのくらい入っているつもりだ?」
「そうですね。一、二時間ぐらいでしょうか」
「そんなに瞑想するつもりかい?」
「ええ。密室について、考えをまとめたいんです。密室の分類をしたいんですよ」
「そうか。ではその分類が完成したら、密室講義をしてくれ」
「わかりました」

ええ、そんなに簡単に完成しちゃうのかよ、みたいな。