重松清『その日のまえに』

その日のまえに

その日のまえに

本屋大賞ノミネート作品)
幸せな家族に突如襲い掛かった妻の病気。余命を知らされ、自分の命の限界を知った妻と夫は、「思い出」を辿る小さな旅に出た……の表題作と、妻が世を去るまでを描いた「その日」、その後を綴った「その日のあとで」の連作を中心にした短篇集。全てに共通するのは、誰にでも必ず訪れる「愛する者の死」という事実ををどう捕らえ、受け止めていくかだ。泣かせの要素がふんだんに織り込まれているし、重松清の文章運びがまた憎いほど巧いので、誰でも間違いなく泣いてしまう。しかし、あまりにも安直にガンだの余命何ヶ月だのを使ってくるのには、ちょっと辟易してしまった。人の死が泣けるのは、至極当然のことなのだ。既に「涙なしで読めない傑作」と充分知れ渡った状態で読んでいるので、ついつい斜に構えた姿勢になっている自分がいるのだ。泣きたい人が、思い切り泣きまくりたい時に読むのが相応しいだろう。