古処誠二『遮断』

遮断

遮断

自らの死が間近にあることを意識していた佐敷真市の元に一通の手紙が届けられた。それは、彼が絶対に忘れることのなかった、忘れられるはずのなかった、昭和20年の沖縄戦を思い起こさせた――米軍に追い詰められていく中、防空壕に隠れていた住民までが兵隊の保身のために追われていた。普久原チヨはそんな住民の一人だった。彼女の夫、清武は真一と同じ部隊で戦っていたが、真一には自分が清武を殺したのだという負い目があった。チヨは部落の防空壕に乳児・初子を残したままにしていた。取り残された初子がもし米軍に発見されても、生かさているはずもないのに、チヨは娘を捜しに行こうとしていた。そして真一もまた、チヨと一緒に移動を始めたが……。
古処誠二がミステリから離れ、戦争小説を書くようになってからちょっと敬遠していたのだが、今回直木賞候補になったのを機に読んでみた。純文学だと思っていたが、ここでもミステリ的な要素が少なからずあることに感心させられた(あまり大きな仕掛けではないが)。「手紙」を一文ずつ挿入していくことによって効果を上げており、ラストでは最初の段階で読者が予想していたのとはまた別の感動を得るのだ。沖縄戦の悲惨さ、無残さがリアルに描かれる(比較すべきではないかも知れないが、例えば福井晴敏はエンターテイメント性が高すぎるように感じる)と同時に、主人公・真一の複雑な境遇が伝わってくる。戦争を知らない世代の作者が、ハイレベルな戦争小説を次々と発表し続けていることには恐れ入るしかない。