蒼井上鷹『ハンプティ・ダンプティは塀の中』

ハンプティ・ダンプティは塀の中 (ミステリ・フロンティア)

ハンプティ・ダンプティは塀の中 (ミステリ・フロンティア)

一留置室にいる人々が見聞きする事件に、マサカさんの推理が冴え渡る連作短編集。ハセモトさんが逮捕された事件の話を聞くうちに意外な真相が浮かび上がる「古書蒐集狂は罠の中」、留置場の外に毎朝現れるアイドルコスプレの少女の謎「コスプレ少女は窓の外」、ドラッグで逮捕されたトマベさんの先輩が殺されたが、最大の容疑者トマベさんには、この留置場にいたという完璧なアリバイがあって……の「我慢大会は継続中」までは、ちょっとした捻りがある普通に面白い短編ミステリ、という雰囲気だが、その後が変な方向に進む。とりわけ、話題に上る事件の関係者がみんな第一留置室にいる? の「アダムのママは雲の上」が最高。泡坂妻夫を思わせる世界だ。最後の「殺人予告日は二日前」は短編集の中心人物ワイとマサカさんにまつわる予想外の真相が明かされる。こういうのが私は大好きなのだ。ありきたりな展開では終わらせない、落としどころが見えない不思議な作風は、この作家にとって武器になっていくだろう。期待したい。