藤野恵美『ハルさん』

ハルさん (ミステリ・フロンティア)

ハルさん (ミステリ・フロンティア)

ハルさんは、結婚する娘・ふうちゃんを前にして、二人で過ごした日々を思い出していた。事件の数々と、その時に助け舟を出してくれた、亡き妻のことを――。
お嫁にいく娘を前にして、過去に起こった事件を次々に思い出す父、の構図。幼稚園時代の「弁当の玉子焼き消失事件」、小学校時代のプチ家出?事件、中学校時代のいじめ疑惑、など、ふうちゃんの成長過程で起こった事件を思い出すハルさん。既に世を去っていた天国の瑠璃子さんが、ハルさんの頭の中に語りかけ、その「脳内会話」は確かに傍目から見ると気持ち悪い世界だが、私はあまり気にならなかった。加納朋子『ささらさや』に近い雰囲気を感じるし、全体的に、さだまさし「親父の一番長い日」を思わせるような話でもある。ミステリ的には弱いネタばかり(謎が発生した瞬間に分かったのもある)なので、そこを期待すると肩透かしを食らうが、ほのぼのとして最後には感動できる小説として、佳作だと思う。