ラッタウット・ラープチャルーンサップ『観光』

観光 (ハヤカワepiブック・プラネット)

観光 (ハヤカワepiブック・プラネット)

大傑作である。タイを舞台に、少年少女の瑞々しい視点で描かれた短編集。決して裕福な生活ではなく、むしろ悲劇が多いが、それでもその世界で一生懸命に生きなければならないのだ。みんな傑作だが、「ガイジン」「徴兵の日」「観光」「プリシラ」「闘鶏師」は読みながら鳥肌が立った。嘘だと思うなら、とりあえず「ガイジン」の最初の2ページだけでも読んでみるといい。心が鷲づかみになるはずである。

「おまえがいくらこの国の歴史や寺院や仏塔、伝統舞踊、水上マーケット、絹織物組合、シーフード・カレー、デザートのタピオカを見せたり食べさせたりしてもね、あの人たちが本当にやりたいのは、野蛮人の群れのようにばかでかい灰色の動物に乗ること、女の子の上で喘ぐこと、そしてその合間に海辺で死んだように寝そべって皮膚ガンになることなんだよ」
(「ガイジン」より)

ミステリでもSFでもない普通小説でこんなに興奮し、この若い才能に嫉妬させられるのは久し振りである。世界にはまだ我々が知らない天才作家が眠っていることを思い知らされた。新世代の天才作家は、タイ(タイ系アメリカ人)から現れた。この覚え難い作家の名前を、今のうちに覚えておくべし。早くも次作が楽しみだ。