2007インターネットで選ぶ本格ミステリ大賞、結果発表!

お待たせしました。
オフィシャル版の「本格ミステリ大賞」は道尾秀介『シャドウ』に決まりましたので、アンオフィシャル版の「インターネットで選ぶ本格ミステリ大賞をここに発表します。
今年の投票者総数=10名様
投票集計結果(全投票者とコメントはこの下にあります)

『顔のない敵』石持浅海 2票
『シャドウ』道尾秀介 4票
邪魅の雫京極夏彦 1票
『樹霊』鳥飼否宇 0票
『時を巡る肖像』柄刀一 2票
(他に「受賞作なし」が1票)

というわけで、栄えある「インターネットで選ぶ本格ミステリ大賞2007」は、
道尾秀介『シャドウ』に決定しました!道尾さん、おめでとうございます!

シャドウ (ミステリ・フロンティア)

シャドウ (ミステリ・フロンティア)

受賞者の道尾秀介さんには、後日トロフィーをお送りします。個人企画なので大したものではありませんが、よろしければお受け取り下さい。(編集部気付でお送りします)


今年は去年に続いて、オフィシャル版と同じ結果になりました。
しかし同時に、ほとんどの投票者から「昨年の本格は低調だった」とのネガティブな意見が寄せられました。それが投票者数減にも繋がったのかも知れません(今年はこの企画を始めて以来、最も少ない投票数でした)。


投票いただいた皆さん、ご協力ありがとうございました。来年もやるかどうかは現時点では未定ですが、また今後ともよろしくお願いします。(短編版は今年もやる予定なので、今回不参加だった皆さんもそちらには投票お願いします)


以下、全投票者の投票内容です。明らかな誤植以外は原文のまま転載しています。改行などはこちらで適宜直しているところもありますのでご了承ください。

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投票者:ウイスキーぼんぼん/ミステリあれやこれや
投票作品名:『邪魅の雫京極夏彦

理由、およびコメント

『樹霊』:樹木が生き物のように移動したり人を殺したりするアイデアや、犯人の真の目的の隠蔽方法が面白く、5作品のうちでは5番目に良かった。
『顔のない敵』:現時点で一番好きな石持浅海さんの本です。地雷による「中途半端な殺意」が面白い作品でした。長編作品が肌に合わないため、長編で受賞するより短編集で受賞したほうが個人的には納得できます。5作品のうちでは4番目に良かった。
『シャドウ』:これはまんまと騙された作品です。伏線・ミスリードの良さは昨年読んだ作品の中では一番です。5作品のうちでは3番目に良かった。
『時を巡る肖像』:柄刀さんらしい大トリックは影を潜めていますが、ドラマとトリックの融合によって感動を生み出しており、このあたりは柄刀さんらしいと思います。お気に入りは陰と陽の二重の意味を込めてみせた「遺影、『デルフトの眺望』」。犯人が明らかな状態で残されたダイイングメッセージものとしても面白かったです。5作品のうちでは2番目に良かった。
邪魅の雫』:「長かったー」とか「シリーズ中最悪!」という感想をかなり目にしますが、わたしは冗談でもなんでもなく、5作品のうちではこの作品が一番面白かったです。クライマックスは京極堂によって読者のわたし自身が憑き物落しをされているようでした。さまざまな人物の視点から物語を描いて分量が多くなっていること、さらに作者が極限まで手の内を晒して、読者にとっては何が謎やら分からなくなってしまったことなどは、趣向的に仕方の無いことだと思います。5作品のうちでは1番良かった。
そんなわけで『邪魅の雫』に投票します。


投票者:ugnol/http://www.geocities.co.jp/Bookend-Ryunosuke/1639/
投票作品名: なし

理由、およびコメント

 今回は残念ながら5作品の中にこれというものが見当たらず、“なし”という結果になった。なんといっても、今年はノミネート作品よりも、ノミネートされていないもののほうが気になる作品が多かった。
 本格推理小説として私の昨年一推しの本といえば三津田氏の「厭魅の如き憑くもの」。これ何故、ノミネートされていなかったのかが不思議なところ。また、私自身は別に推しているわけではないのだが、「本ミス」1位作品の「乱鴉の島」が入っていないのもどうかと思われる。さらには、道尾氏の作品でノミネートされたものは「シャドウ」 であったが、これが「骸の爪」のほうであれば、迷わず投票作品としていた。


「顔のない敵」 石持浅海
 物語としては面白く、ひとつひとつの作品も良くできていると思われた。ただ、長期間にわたってバラバラに書かれた作品であるためか、連作短編集としての全体的な完成度がやや低かったように感じられた。
「シャドウ」 道尾秀介
 これもミステリ小説として、よくできていると思われる。さまざまな伏線が張られて、それらをきっちりと一つにつなげていくという手腕はすばらしい。しかし、序盤に謎の提示というものがはっきりとなされないために、ただ単にたどっていく物語という印象が強かった。
邪魅の雫」 京極夏彦
 この作品はエンターテイメントとしては超一流であると思っている。物語の構造の創りかたと、その構造の解きほぐし方がすごい。ただし、謎とかミステリとかいった観点から見ると物足りなく感じられてしまう。
「樹霊」 鳥飼否宇
 今回ノミネートされた作品の中では一番本格推理小説らしい作品であったと思われる。樹木に主題をおいて、その樹木にまつわる謎を提示し、それらの謎を解き明かすという構造はよくできていたと思われる。そういった中でこれという印象を残すような特徴がないところがやや弱かった。
「時を巡る肖像」 柄刀一
 この作品集は充分な完成度を誇っていると思えるだが、どうも直球のミステリという感じがしなかった。アンチミステリとまではいかないが、ちょっと一癖ある作品集という印象が残る。


 と、そんなわけで今回のノミネートされた5作品は、個人的には本格推理小説としては非常に微妙と言いたくなる作品ばかりであった。


投票者:omsoc/God helps those who help themselves.
投票作品名:『時を巡る肖像』柄刀一

理由、およびコメント

 本格ミステリ不作の1年。候補作全てを読み終えての印象はこれである。
 過去2年この企画に参加してきた。両年とも「これは推したい」と思える作品が最低1つはあったのだが、今年はゼロに近いという惨状。最終的に短編集を選んだが、短編集1冊全てを評価して選んだわけではない。そこに収められた短編1作、それのみに対して票を投じたのである。


 『シャドウ』:いくら多くの伏線をばらまいても、「誰が狂っているのか」を特定出来ないロジックの緩さは否めない。これは「本格ミステリもどき」でしかない。
 『邪魅の雫』:この試みを成立させるためにはある程度の分量が必要なのは分かるが、それでも長過ぎる。事件の茫洋とした表層とも相まって、真面目に真相を解こうとする気にならないなれない。読者の謎に挑もうとする気力を萎えさせるーーそんな作品は本格ミステリなのか。候補に挙がったこと自体が疑問だ。まあ『暗黒館の殺人』よりはマシだけどね。
 『顔のない敵』:ハズレはないが、さりとて大アタリもない「全打席内野安打」な短篇集。ミステリ的な要素よりも、『利口な地雷』や『未来へ踏み出す足』に登場するテクノロジーの方が印象深かったというのも微妙なところ。
 『樹霊』:事件全体を支配する犯行動機は素晴らしい。スレンダーな分量も好印象。ただ、木々を移動させるトリックが総じてショボかったり無理があったりするのが難。
 『時を巡る肖像』:『デューラーの瞳』、これ1作が全て。たったこれだけの枚数に、ぎゅうぎゅう詰め込まれたトリックの濃密さに酔った。以前の独り善がり気味な作風から脱皮した点もナイス。ないものねだりとは分かっちゃいるが、これ以外に1つでも同レベルの出来のものがありさえすれば。


 ずば抜けて優れた箇所を1つ持つ長編『樹霊』と、ずば抜けて優れた短編を1つ収めた短編集『時を巡る肖像』の、こう言っちゃあ何だが、低レベルな一騎打ち。「ずば抜けて優れた」部分を独立して味わうことが可能なので、という理由で『時を巡る肖像』(というより『デューラーの瞳』)を選んだ。


 尚、投票する際の判断材料にはしなかったけど、『シャドウ』のとって付けたようなハッピーエンド、『顔のない敵』の各編における結末のワンパターン、『樹霊』の探偵が涙するシーン、これらに対して不快感を覚えたことは記しておきたい。


投票者:都鞠龍華/http://tomari.nobody.jp/
投票作品名:『シャドウ』道尾秀介

理由、およびコメント

必然性のあるつまらなさを体現した『邪魅』は考えるまでもなく、論理性に特化しているものも、謎の見せ方に不足を感じた『時を巡る肖像』も大賞としては相応しくないのではないかと感じた。また、『顔のない敵』も地雷を活かした事件であるところは評価出来るが、解決を明かされた時の衝撃が低く、不満を感じた。一方、最も評価出来たのは『樹霊』で、動機には非常に衝撃を受け、近年まれに見るレベルの"世界の逆転"を味わうことが出来たが、それを活かすための物語の作り方になっていないため、非常に惜しかったと思う。今回は正直、"受賞作なし"もありだと感じて悩んだが、消去法により、『シャドウ』に票を投じることにした。完成度では候補作中トップであるし、伏線の張り方や、ある程度読者に分からせておいてその先を行く手法は本格として優れており、大賞でも遜色ないと判断した。


投票者:名無しのオプ/鳥頭読書日記
投票作品名:『顔のない敵』石持浅海

理由、およびコメント

今回はかなり迷った。どれも何かしら選びにくい理由を持っていたので。
まず、短編集に関しては平均的に出来がよくないと投票したくないというポリシーがあって。
『時を巡る肖像』はその点波が大きかったので除外。
『顔のない敵』はバランスが取れていたのでまだ候補のうち。
邪魅の雫』は趣向は買うのですが序盤があまりに長すぎる。
『樹霊』、これはこれでいい作品ではありますが、鳥飼さんならば他の短編集で受賞した方がと思ってしまって。
『シャドウ』より、期間内の作品では『骸の爪』の方が、道尾さんの作品としては優れていたように思えて今回は見送り。
そんなふうにいつものように消去法で。
今回は特にマイナスポイントが少なかった作品に投票します。


投票者:「鳩時計」子fromやぶにらみの鳩時計@はてなやぶにらみの鳩時計@はてな
投票作品名:『時を巡る肖像』柄刀一

理由、およびコメント

 候補作五作で順位をつければ、『時を巡る肖像』『樹霊』『シャドウ』『顔のない敵』『邪魅の雫』という順番になります。『時を巡る肖像』は柄刀氏のロマンティシズムが、最良のかたちでミステリーに結実したものと思います。『樹霊』はとてもユニークな作品で好きです。筒井康隆の某短編から着想されたのでしょうか。道尾氏の『シャドウ』は佳作です。が、先日刊行された『片眼の猿』は傑作です。この作品は、道尾氏にとって、伊坂幸太郎における『アヒルと鴨のコインロッカー』的な位置を占めるのではないかと思います。別の作品のハナシをしてすみません。『顔のない敵』で、石持氏の探偵小説作法におけるモラルのありかたが、一層鮮明になったと思います。石持氏のコミュニタリアニズム的な倫理が、一部で単なるアモラルな文学的実践としてしか捉えられていないことに、危惧を覚えます。先日公開された『本ミスベスト10』の過去十年ベストで、京極氏がワンツーフィニッシュを決めた(そしてそれらがちょうど十年前のベスト10でもワンツーフィニッシュを決めている――順位は逆ですが)ことからも分かるように、少なくとも過去十年の<本格>は京極氏のが“王道”でした(と、言っていいはずです)。『邪魅の雫』は“王道”の地位に甘んじることなく、更なる展開を模索していることが窺えて、興味深いです。であるからこそ、『厭魅の如き憑くもの』と是非同じ土俵にのせていただきたかった。


投票者:漂泊旦那/ホームページ移転のお知らせ - Yahoo!ジオシティーズ
投票作品名:『顔のない敵』石持浅海

理由、およびコメント

今年は全体的に小粒な作品が多かったため難しい。いずれも一長一短である。『骸の爪』がノミネートされていれば文句なしで投票していたのだが。『シャドウ』は本格ミステリとしてみると、謎解きの面白さという点で落ちる。『邪魅の雫』は余計な部分が多くて長すぎ。『樹霊』は謎と解決の落差が大きい。『時を巡る肖像』はいい作品集だが、心理面を深く掘り下げた分謎解きが弱いか。『顔のない敵』は収録作にばらつきがあるのが気がかり。特に昔に書かれた作品の方が面白いということが残念である。それでも、テーマ・題材の選択が優れている『顔のない敵』に投票したい。


投票者:政宗九/当サイト管理人
投票作品名:『シャドウ』道尾秀介

理由、およびコメント

今年は悩まされた。「我に投票せよ」と強力に背中を押してくれる作品がなかったからである。なので、5作品から比較して、頭一つ抜きん出ていると思われる作品に票を投じたが、「大賞としてダントツ、文句なし」というほどではないことをお断りしておく。
道尾は今最も乗っている作家の一人であり、どれも標準以上の作品を残している。が、個人的には昨年の道尾ベストは『骸の爪』だった。これが候補になっていたら迷わず選んでいたところだ。しかし『シャドウ』が凡作なわけでは決してない。読者を翻弄させ、予想の斜め上を行く叙述上のテクニックと伏線の妙味が素晴らしい作品であり、本格ミステリの収穫の一つだと思う。
石持も傑作短編集だが、短編集であることが印象を弱くしている。京極は全体構造は素晴らしいものの、いかんせん長すぎた。柄刀は特に動機面で感心させられる作品が多かったが、トリックに新味が感じられなかった。鳥飼は本格らしい本格で、奇想と論理の融合が面白かったが、動機が説得力に欠ける気がした。
今年は東京創元社ミステリ・フロンティア」から二作品も候補に挙げられたことにも注目したい。現在の本格シーンにおいて中心にあると思われる叢書シリーズから候補作が二作出たことは、このシリーズへの期待感の表れでもある。これからも優れた作品が「フロンティア」から出てくることを楽しみにしている。


投票者:湊/積読自慢はカッコワルイと思います。
投票作品名:『シャドウ』道尾秀介

理由、およびコメント

 今年は全体的に低調だったと思う。曖昧模糊たる事件全体を”邪魅”という妖怪に擬したうえで作品を作り上げ、巧みな構成力を見せつけた京極夏彦邪魅の雫』、動く巨木という魅力的な謎を中心に大小数々の謎を織り込みながら着地もしっかりと決め、なおかつ意外な動機まで提示して見せた鳥飼否宇『樹霊』、絵画にまつわる謎と解決であいかわずの堅実さを発揮した柄刀一『時を巡る肖像』、”地雷”という一見本格ミステリとはそぐわぬテーマを扱いながら、さまざまなシチュエショーンで本格地雷ミステリを書き上げた石持浅海『顔のない敵』。各作品見所は十分にありながらも決め手に欠ける印象のなか、張り巡らされた伏線とその回収の妙、そして真相解明後に生じる作品内世界観の転倒によりカタルシスを感じさせる道尾秀介『シャドウ』が総合力で頭ひとつ抜けていると判断した。前年にエントリーされた『向日葵の咲かない夏』が本格ミステリというジャンルの枠からややはみ出た印象があったのに対し、『シャドウ』は同ベクトルのアプローチを用いながらもきっちり枠内に着地させた点も(選出基準としてはいささか不適切ではあるものの)評価したい。


投票者:monstre
投票作品名:『シャドウ』道尾秀介

理由、およびコメント

一位 道尾秀介「シャドウ」……ミステリでは騙されたときに「あぁ〜、あの伏線はこういう事だったのか!!」となるのが普通なのに、今回は途中の真相に至ったときに「卑怯だ!地の文で嘘を吐いてるに違いない」と思って、最初のページからじっくりと読み返してみました、、、。見事なフェアプレー。寡聞にして前例を知らないのですが、この技法は叙述の仕掛けに新たな大きな幅を与えたことになるのではないでしょうか?  
二位 鳥飼否宇「樹霊」……冒頭に「驕りの樹」からの引用で、あり得ないことの例として樹が歩くと言う言葉を持ってきて、本当に樹が動くストーリーを持ってくる辺りチェスタトン的逆説を期待させてくれます。そして、ナナカマドが植え替えられる日常の謎と、ハルニエの巨木が移動するという非日常の謎という二段構え、まるで想像してない方向から届く訃報。トリックそのものは全て前例があるものの、事件の様相が組み立てられ解体されるときに湧き立つ動機と犯人の仕掛けの意外性は絶品。
三位 石持浅海「顔のない敵」……「利口な地雷」で描かれるスマート地雷の開発意図をひっくり返す、善意が悪意に反転する様が見事。この短編一つの破壊力なら一位に推したいところですが、短編集全体で平均するとこの位置かな。
四位 柄刀一「時を巡る肖像」……去年の「容疑者Xの献身」同様に人間を描くことに主眼が向けられた作品を一つ入れておこうという狙いが見えます。美に魂を捧げた人達を描くためにトリックを奉仕させているためか、ストーリーの邪魔にならないよう伏線の数も抑えめ。そのため御倉瞬介の推理は論理の跳躍をすることになり、唯一の解答と言うよりは一つの可能性にしか聞こえないのが弱い。しかし、小説としては最初と最後を除いた間の四編は素敵なので「このミス」での健闘を祈りたい作品になってます。
五位 京極夏彦邪魅の雫」……シリーズを読んできた人にとっては冒頭p6〜p12の内的告白部分が最大のサプライズでしょう。作品コンセプトさえ揺るがしかねません。でも、なぜこれが候補作に?