古川日出男『ハル、ハル、ハル』

ハル、ハル、ハル

ハル、ハル、ハル

天才作家の書く小説に、もはや口を挟む余地はない。以上。


あとがきのような文章にて、著者は

二〇〇五年十一月から僕は完全に新しい階梯に入った。最初にこれを断言しておこう。

と書いている。最近の著者の小説は、何か「今までにないもの」「読んだことのないもの」になっている気がしていたが、それを自らが明記したのだ。元々天才作家だったが、ここで「真の天才の領域」に入ったのだと思われる。凡人の私が理解できないのも仕方ない。いや、単に「よく分からないもの」への理解の努力を私が怠っているだけかも知れない。そうだ、正直に言おう、実はよく分かっていない。しかし、それを超越して、何か凄いものを読んでいることだけは感じ取れるのだ。文章にドライブされ、酔いしれるだけである。
以下の文書にピンときたら、迷わず読むべし。素晴らしい読書体験が得られるだろう。

この物語はきみが読んできた全部の物語の続編だ。ノワールでもいい。家族小説でもいい。ただただ疾走しているロード・ノベルでも。いいか。もしも物語がこの現実ってやつを映し出すとしたら。かりにそうだとしたら。そこには種別(ジャンル)なんてないんだよ。
暴力はそこにある。
家族はそこにいる。
きみは永遠にはそこには停まれない。
了解したか? これはただの前口上だ。
(7ページ「ハル、ハル、ハル」より)

だいいち、“未来の”あたしなんて信用できたものではない。
告白するけれども、あたしは小学六年の正月と中学二年の正月と、高校一年、二年、三年の正月に、それまでつけていた日記帳を燃やした。
ほら。
実証。こんな“未来の”あたしなんて、信用できない。
破壊者=読者なんて。
だから発想を変える。あたしはあなたにむけて、書く。
(75〜76ページ「スローモーション」より)