NHKスペシャル「沸騰都市」

NHKスペシャル「沸騰都市」が今最高に面白いので、是非紹介させてください。
NHKスペシャル
世界各地で新たなエネルギーが生まれつつある都市を「沸騰都市」という表現で紹介したシリーズです。既に3回目まで放送されていますが、どれも素晴らしいドキュメンタリーでした。
内容を紹介します(別の場所で書いた文章のコピペです)



第1回・ドバイ「砂漠にわき出た巨大マネー」

ドバイはほんの十年ほど前まで、ただの砂漠の町に過ぎなかった。その砂漠を投資家に「切り売り」して開拓させた首長(首長が支配するアラブ首長国連邦の町の一つがドバイだ)の政策が成功し、突如としてお金が集まる巨大都市になった。実はドバイは産油地ではなく、既に油が枯渇した場所だ。他の産油地で儲かったお金が流れ込んでいるのだ。不動産開発も、全てが先行投資。実際に住んでいる人は少なく、まだ完成していない物件が既に投機対象として転売されている。株価も好調で、あのサブプライム・ショックで世界不況が起きた時も、ドバイだけが株価が上がり続けた。
「海のナキール、陸のエマール」と呼ばれ、パーム・ジュメイラ、ザ・ワールドなど海岸の埋立地開発をナキール社が、世界一高いビル、ブルジュ・ドバイの建設をエマール社が進めている。ムハンマド首長は言う、「私の夢は世界一になることだ。誰も二番目には興味はない。エベレストに二番目に登頂した人の名前など、誰も知らない」。その手腕は、「ドバイ株式会社CEO」と揶揄されるほどだ。
ブルジュ・ドバイは来年秋完成の予定で4日に1フロアという驚異的なスピードで建設されているが、果たして何階建になるのか、まだ明かされていない。もっと高いビルが他の国で発表された時、それをさらに上回るつもりだからだ。
人口140万のドバイの約半分は、インドなどから出稼ぎに来ている労働者たちだ。建設資材の価格は急騰しており、人材確保も新たな課題だ。世界最大のアミューズメント地帯として計画されていた「ドバイランド」もまだ、ほとんど手付かずだ。突貫工事的な開発も限界が近づいている。

数年前までの「砂漠と石油」だけのイメージはもはや捨て去った方がいい。オイルマネーが湯水のように溢れたための都市開発が各地で進む中、不動産開発で成功した観光都市ドバイ。はっきり言って、バブル経済そのものであり、いつ崩壊するか分からない。ゴーストタウンと化すかも知れない。


第2回・ロンドン「世界の首都を奪還せよ」

ロンドンはかつての栄光を取り戻そうとしている。その多くを支えるのは、ロシア・インド・中国などの新興国の資産家たちのお金だ。新興国の人材とマネーを貪欲に吸収して世界の首都をニューヨークから奪還しようと躍起なのだ。ロシア・フェスティバルに招かれた市長は言う、「ロンドンを豊かにしてくれるロシアの皆さんの力を歓迎します」。
外国資本流入の象徴が、イングランドのサッカーリーグ「プレミアリーグ」だ。20チームのうち、実に9チームが外国資本だ。今シーズン2位のチェルシーはロシアの大富豪がオーナーだ。チェルシー・サポーターのロシア人実業家は言う、「チェルシーはロシアそのものなのだ。チェルシーが強ければ、我々も勇気付けられる」。しかし弊害もある。イングランド庶民の楽しみだったサッカーが、完全にビジネスの舞台に変わってしまった。大金でスター選手をかき集め、TV放映権料も大量に入ってきた。チケット代も高くなり、低所得者層が観戦できなくなってしまった。
意外な人物もいる。マンチェスター・シティーのオーナーはなんと、タイのタクシン元首相だ。軍事クーデターで祖国を追われたかつての「タイのメディア王」は、マンチェスター・シティーを舞台に投資活動をしている。「ロンドンは私のような人間も受け入れてくれた。感謝している」。目標はチャンピオンズリーグに残れる「4位以内」。前半好調だったチームだが、後半は苦戦を強いられ、ついに9位にまで落ちてしまった。タクシン氏は早くも来年を視野に入れた活動を続けている。
しかし最近、イギリス政府は外国人への優遇税制などを見直し始めた。開放政策でロンドンを急成長させた市長は3選を目指したが、僅差で敗れてしまった。タイではタクシン派の政党が勝利し、タクシン氏は念願の帰国を果たした。プレミアリーグ最後の牙城・アーセナルにも「ロシアの鉱山王」がじりじりと買収に動いているが、アーセナルは断固拒否の構えだ。ロンドンの真価が問われるのは、これからだ。

外国資本の流入で劇的な復活を果たしたロンドンだが、以前からロンドンに住む労働者階級の待遇は全く改善されていない。歪みを残したまま大きくなっていく。


第3回・ダッカ「“奇跡”を呼ぶ融資」

「レンガ一つでは何もできない、しかし、積み重ねていけば、いつか大きなものになる」――バングラデシュに古くから伝わる格言だ。今、その格言が現実になろうとしている。ダッカは建設ラッシュに沸いているのだ。世界一貧しい国・バングラデシュが、ここ5年で目覚しいほどの経済成長を遂げている。国に頼らず、人々が自らの力で豊かさを勝ち取ろうとしているのだ。ダッカの人口1200万のうち40%が貧困層だが、ここ10年間で10%も貧困層が減った。
ダッカでは次々に新しい会社が生まれる。貧困層出身の人たちが、町工場の労働者から這い上がり、経営者になっていく。彼らに融資をしているのは、巨大なNGO「ブラック」だ。無担保・低利子で、大銀行が貸さない層の人々にも積極的に資金を提供している。「ブラック」の会長は言う、「私たちは機会を与えているが、貧困を抜け出すのは本人だ。自らが運命を変えなければならない」
スラム街に住む貧困層にも、ブラックは積極的にお金を貸している。小額のお金を貸して、自ら商売を始めさせる「マイクロクレジット」という手法で、人々が貧困から脱却するための融資をしている。借りた人々は、そのお金を資金にして商売を始め、儲けから少しずつ返していく。返済率はなんと99%以上。借りているのはほとんどが女性だ。勤勉で責任感が強いからだ。彼女たちは口々に言う。「海外の援助はいらない。私たちでやっていく。そのうち日本より発展できるよ」「頑張ることなら負けない」「前はどうしていいか分からなかった。ブラックが豊かになる方法を教えてくれた。誰も私たちを止められないよ」
貧困の原因は「情報格差」だと考えているブラックが今、力を注いでいるのは、インターネットの普及である。まずダッカ市内を普及させ、今度は農村にも広げようとしている。インターネットがまず効果を上げるのは教育の部門だ。また農村では、インターネットでダッカの市場取引価格を見ている。生産者と消費者の価格の格差を知った彼らは、農家に情報を与え、仲買人との交渉を有利に進めてもらおうとしている。
縫製業で成功した立志伝中の社長が、新人経営者に厳しいアドバイスを与える。しかしそれは、彼らがさらに成長するために必要なのだ。「バングラデシュは政府も誰も助けてくれない。自分の足で、自分で立ち上がって上に上がらなければ」
ダッカでは誰もが仕事をし、豊かさを目指している。地方の貧しい村から全財産を持ってダッカに集まってくる。人々の大きなうねりが、都市を変え、国を変えようとしている。

バングラデシュと言えば「洪水」と「貧乏な国」というイメージしかなかった。しかし、油断していると、いずれ東アジアの大国に負けないほどの存在になっているかも知れない。
こんなにもみんなが必死に働いている姿を、必死に生きている姿を、今の日本で見ることができるのだろうか。確かにバングラデシュはまだまだ貧しい。建っているビルもいかにも弱そうだし、開発も不十分だ。減ったとはいえ、貧困層もまだ多い。しかし、豊かさに慣れて溺れて奢っている日本の方が、遥かに貧しいように思えた。
「人々の力」を感じさせる回だった。敗戦から復興に懸命だった頃の日本と同じような状況が今まさに起こっているのが、ダッカという町ではないか。3回放送された同シリーズの中でも、最高の感動作だった。


第4回・イスタンブール「激突 ヨーロッパかイスラムか」は、6月28日午後9時放送予定です。