有栖川有栖『鏡の向こうに落ちてみよう』

鏡の向こうに落ちてみよう 有栖川有栖エッセイ集

鏡の向こうに落ちてみよう 有栖川有栖エッセイ集

短いエッセイでも読みどころと「オチ」をちゃんと用意している文章が多く、さすがプロは違うなあと感心した。冒頭の台湾ミステリ界の話がやはり最も面白い。島崎博という人物は、ミステリマニアにとって特別な存在である。
新本格バッシングについて書かれた文章が実に巧かったので、引用する。

当時、新本格バッシングなるいうものがあったらしい。講談社ノベルスから島田荘司氏の推薦とともにデビューした新人作家に向けて痛罵の声があり、やがて創元社デビュー組の私もその射程に入ったようだが、そんなことは後日になって知った。「ほら、こんなことを書いている同人誌があるんですよ」と見せてくれた人がいる。だが、それはデビューして三、四年もたってからのことで、愉快ではなかったものの、すでに私の中に「新本格がここまで嫌いな人がいるのか。でも、ごめん。新本格も俺も、もう軌道にのったわ」と思うだけの余裕が生まれていた。めでたくできている男は、バッシングをパッシングしていたのだ。(93 ページ)

バッシングをパッシングって……座布団十枚差し上げます。