朝倉かすみ『田村はまだか』

田村はまだか

田村はまだか

遅ればせながら今年の話題作を読んだ。
断言しよう。
大傑作だ。
小学校のクラス会の三次会でスナックに集まった五人の男女が、遅れて来るはずの「田村」を待っているだけの話なのだが、その合間に「待ち人」それぞれの物語が一編ずつ描かれる。それらがことごとく素晴らしい。パンダの着ぐるみのままクレーム処理に行かされる男の話だったり、歳の離れた男子学生に淡い恋心を持ち続ける保健室の先生の話だったり、隣の子が書いていると思しきブログの文章に一喜一憂したり。それら「小市民」的なディテールの一つ一つが印象深い。
そしていよいよ田村が来るかと思われたところからの思わぬ展開、そして感動的なラスト。回収される伏線。最後のマスターの台詞には、泣かされてしまった。今の私が、この作品の登場人物たち(40歳)とほぼ同い年なので、なおさら共感したのかも知れない。過去のノスタルジーと、現在の状況と、既に近づきつつある「死」を意識し始める、そんな微妙な年代だ。
もう書いてしまうが、来年の「本屋大賞」最有力候補だと思う。今だったら、私も間違いなく投票する。直木賞候補にならなくて、よかった。
もっとも、若い世代に受けるのかどうかが心配だけど。