二冊の「ケータイ小説分析本」
- 作者: 杉浦由美子
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2008/05/08
- メディア: 新書
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「ギャルズライフ」などの投稿欄や、斉藤美奈子『妊娠小説』と関連付けさせるのは『ケータイ小説的。』と同じ指摘だ。本書の中で、『ケータイ小説的。』の著者、速水健朗の別の本『自分探しが止まらない』に触れているのも、共通項をある程度感じているのかも知れない。
いくつか印象的な分析を引用しよう。
- 本書では、この『恋空』が多くの女子中高生に読まれた理由を解いていくが、『恋空』を含める「ケータイ小説」が批判される理由の一つには、それが読者以外の大人には理解不能な内容の「閉じた」作品だということがある。(38ページ)
- 母親が「これなら買ってあげてもいいわ」と安心するパッケージでなくてはならない。この点で、「ケータイ小説」書籍をみると、非常に工夫を凝らした可愛い装丁が多い。(76ページ)
- なぜ、推薦コメントをするタレントの顔が載るのか。理由は「誰が書いたか」よりも「誰が読んでいるのか」が重要になるからだ。(78ページ)
- 万が一、レイプされた経験を書く勇気ある女性作家がいたとしても、この『恋空』のような甘ったるい「レイプ」は描かないだろう。
- 『恋空』が描く「レイプ」は大人からみたら少しも「リアル」ではない。(117ページ)
- 「ケータイ小説は小説ではない」と主張する人も多い。
だとしたら、『恋空』は一種の「自己啓発本」として売れたのだろう。(140ページ)
- 「ケータイ小説の書籍は、美人が書く作品ほど売れる。美人には事件が起きるんですよ。彼女たちが書く作品は多くの読者の共感を得られる」(157ページ)
- 自分のことを書くだけなら素人にもできる。しかし、「自分の物語」から離れることができるのがプロだということになる。(204ページ)
・伊東寿朗『ケータイ小説活字革命論』
ケータイ小説活字革命論―新世代へのマーケティング術 (角川SSC新書)
- 作者: 伊東寿朗
- 出版社/メーカー: 角川SSコミュニケーションズ
- 発売日: 2008/05
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意外なのは、ケータイ小説の本格的なブームの最初、Chacoの『天使がくれたもの』のことを、書籍化の話が決定するまで知らなかったことである。
僕はそのとき、『天くれ』の存在を知らなかった。それこそ、実際にケータイで小説を読んでいた若い世代から見ると「もぐり」であり、なんと浅はかであったか。(64ページ)
しかもこの書籍化、会社主導でも著者主導でもなく、読者主導だったそうだ。この作品がいかに胸を打ち、周囲が支持しているかを涙ながらに訴え、書籍化を熱望した一本の電話がきっかけだったという。これこそ、ケータイ小説が「仕掛け」ではなく「読者からの自発的なムーブメント」であったことの表れだろう。そして恐らく、出版社主導になった現在は、この空気は既にないはずだ。
最近の消費者は、ビジネスの匂いに意外と敏感で、そうした形が見えてきた瞬間に一気にしらけてしまうことがある。(105ページ)