NHKスペシャル・沸騰都市第6回「サンパウロ・富豪は空を飛ぶ」

後半シリーズのみならず、前半から通しても「ダッカ」に匹敵するほど秀逸な内容だったと思う。

サンパウロの富裕層たちは、みんな車を防弾用に改造している。そしてさらなる富豪たちは、空の上を行く。自家用ヘリで飛び交うのだ。彼らは「空飛ぶ富豪」と呼ばれている。個人所有のヘリは400機を超え、世界一の規模だ。
サンパウロは渋滞が深刻な社会問題だ。中間層が増えたため、自家用車が増えたのだ。富豪たちがヘリで飛ぶ理由の一つでもある。


世界的金融危機は、BRICSの一翼を担うブラジルにも襲い掛かっている。しかし、今だからこそ、みんなで立ち上がろうとしている。豊富な農業資源がブラジルにはあるのだ。
昨年11月、サンパウロでG20が開かれた。参加諸国が自信を失っている中、過去幾多の経済危機を乗り越えてきたブラジルのルーラ大統領だけは強気だった。それを支えるのは農業力にある。


金融危機の中にあっても将来の展望は明るい」と新聞記事は踊っている。穀物・大豆・畜産・果物……ブラジルは、これら全ての分野で世界最高の資源力を持ち、まだ未開発の土地が限りなくある。石油に代わるエネルギーとして注目を集めるエタノール燃料もまた、重要な資源となっている。エタノールの二大生産国は、アメリカとブラジルである。環境ビジネスの一つとして注目されている資源だ。「石油は戦争の元だった。エタノールはその正反対で、みんなが集まり平和になる」とエタノール工場を持つ富豪は言う。
1975年の「国家アルコール計画」政策により、石油に換えてエタノール開発を推進した。当時の世界はエタノールに見向きもしていなかった。しかし、イラク戦争によって、一気に普及することになった。

エタノール開発には日系人も関わっている。先駆者の一人は日系二世だ。彼もまた「国家アルコール計画」でエタノールに飛びついた。なかなか普及せず、事業の危機にもみまわれたが、21世紀になって突如として花開いた。「成功? まだ頑張ってるじゃない。成功したら辞めますよ」と彼は笑う。


エタノール工場は国全体に300万人の雇用を生んだ。貧困層からの脱却に成功した人々が増えたのだ。


金融危機をどう乗り越えるのか。ルーラ大統領は各界の雄を首都に集結させて、消費を促す訓示を与えた。急激に増えた中間層が消費していけば、まだまだこの国は豊かになれるはずだ。


中東の産油国の投資家たちが今、ブラジルのエタノールに注目している。石油に混ぜれば寿命が延びるのだ。エタノール工場の経営者とサウジアラビアの投資家との商談も進んでいった。日系二世のエタノール経営者にも、アメリカの投資ファンドから、パイプライン投資の商談が来た。長期的投資だが、未来を見据えた投資でもある。


ブラジルで開かれた「バイオ燃料国際会議」には数多くの参加が集まっていた。今、新しい投資先としてバイオ燃料が注目されているのだ。とりわけ多いのがアフリカの参加者。サトウキビ畑が豊富にあり、エタノール生産に可能性を見出しているのだ。貧しい国々にとって、輸出産業になれるかも知れないからだ。
中東・先進諸国主導型の原油産業から脱却し、バイオ産業が発達すれば、ブラジルを中心に新しい勢力図が生まれるかも知れない。ブラジルが最も力を入れている所以だ。
EUも、ブラジルからのエタノール輸入を拡大するというニュースが飛び込んできた。


「アリのように、たゆまず働く」――街の渋滞もまた、繁栄と労働の象徴だ。かつて失業率が20%を超えていた時代もあったが、現在は減り続けている。みんな労働の喜びに溢れている。ブラジルは投機マネーによってではなく、国民の力で成長した。だから世界市場がどんなに混乱していても、揺るぎない自信があるのだ。

今までの都市との大きな違いは、国を挙げての総協力体制だと思った。
民衆の雰囲気や思いは「ダッカ」に近いが、ダッカは国に頼れないからこそ、一人一人が頑張っていて、NGOが後押ししていた。サンパウロは大統領や富豪たちから一般大衆まで、みんなで国を豊かにしようと懸命なのだ。
ずっと貧しかったが、結婚二十数年目にしてようやくマイカーを購入した夫婦が登場していた。
二人の表情、笑顔が本当に輝いていて、素晴らしかった。幸せというのは、こんな規模でも充分得られるものなのだろうと思う。
次回はシンガポール、2月15日予定です。