NHKスペシャル・沸騰都市 第7回「シンガポール」&第8回「東京」

ついに沸騰都市も終わりました。
第7回・シンガホール「世界の頭脳を呼び寄せろ」

昨年、シンガポールで初めてF1が開催された。招致した首相が目指すのは、シンガポールを海外にアピールし、世界の人材を集めることだ。今、科学者・投資家が続々とシンガポールに集まっている。世界中から天才を集め、潤沢な予算と手厚い待遇で迎えている。人材を元に繁栄を目指す戦略だ。
シンガポールはアジアの金融の中心である。海外からの富裕層が続々と流入している。彼らへの優遇措置が取られているのだ。
アメリカで毎年行われていたCGイベントもシンガポールに招致した。その目的もまた、人材確保だ。華やかな会場の裏側で、優秀な人材の獲得が行われている。
金融危機の影響もあるが、現在、シンガポールの外貨準備高は世界最高水準だ。「危機の今こそ、人材獲得のチャンスなのです」
シンガポールには天然資源はほとんどない。水さえも、マレーシアから引き込んでいる。一人当たりGDPで日本を追い抜いたが、今年は金融危機の影響で、マイナス成長になった。リー・シェンロン首相は言う、「これからは知識が経済を動かす時代です。才能を集めることが発展のカギです」
バイオテクノロジー科学者の招致を最重点に置いている。将来性のある分野に集中投資している。巨大な設備「バイオポリス」に、既に世界中の科学者が集まっている。日本からも才能が来て働いている。京大の伊藤教授は、定年を迎えた後、シンガポールに来ている。定年後は日本では活躍する機会がほとんどないのだ。
シンガポールの目標は、医療大国の実現だ。世界中から患者が集まれば、莫大な収入になる。「ノーベル賞なんか二の次だよ。興味があるのはGDP、雇用、国家の収入だ」
観光にも力を入れるシンガポールでは、巨大カジノの建設も始まっている。労働者たちも海外からの流入組だ。派遣会社に所属し、認可が下りないと働けないシステムだ。しかし、金融危機の影響で建設自体も減っている。海外から来る人々にも充分な仕事が与えられていないのだ。女性は家政婦として働いている。フィリピンからの流入が多い。シンガポールは海外からの労働者の定住は認めない。最大2年だ。女性も半年に一度妊娠検査を受け、陽性なら国外退去だ。


デモが禁止されているシンガポールで、集会が行われていた。金融危機で大打撃を受けた投資家たちが窮状を訴えているのだ。株価は一時、50%以上下落した。ニューヨークからシンガポールに移住した投資家は、取材に講演にと忙しい。
労働者の集まる「リトル・インディア」では仕事がない人々で溢れている。故郷で大金を叩いて来ているのに、仕事がないままで帰れない。NGOや労働省に訴えている。
バイオポリスでは、科学者のスカウトをさらに急いでいる。候補者には、IPS細胞の山中教授の名前も挙がっている。世界各地で研究予算が減っている中、今は人材を集めるチャンスだと考えられている。
ただし、研究結果が評価されないと、科学者はシンガポールにはいられない。日本なら研究論文が科学誌に載ることで評価されるが、シンガポールでは一流誌(「ネイチャー」など)に掲載されないと評価されない。
新たな研究施設「フュージョンポリス」も建設された。バイオテクノロジーだけでなく、人工知能、IT技術など、あらゆる研究を集結させ、新たな科学研究を出そうとする試みだ。
アジアで最も豊かな国となったシンガポール。シー・シェンロン首相は言う、「全国民が同じ方向に向き、まい進していく」――その一方で、派遣契約を切られ、祖国に帰国する人もいる。祖国に学校を作るという夢も叶わぬまま――。

シンガポールは都市まるごとが国家だから、一つの分野に特化した政策が容易にできるのだろう。自給率はかなり低いだろう(水もマレーシアから引いているくらいだから)から、農業などは切り捨てているに違いない。
才能をかき集めることに躍起になっているが、一方で出稼ぎ労働者に対する保護はないに等しいという対比構図。なかなか複雑な気持ちになってしまった。どこかの国も反省すべきではなかろうか。


その「どこかの国」が第8回目の舞台。
第8回・東京「TOKYOモンスター」

現在、首都高速道路・山手トンネルの建設が進んでいる。世界で2番目に長い道路トンネル、完成は4年後だ。その道は、数多くの地下鉄・地下河川の合間を縫うように進んでいる。世界に類を見ない地下大国になっている象徴でもある。
巨大化した都市を支えるライフラインも地下に広がっている。植物も発光ダイオードの光で、地下で育っている。地球温暖化による天候異変が起こっても、地下では関係ない。
人工の川も地下に作らている。「首都圏外郭放水路」は、川の氾濫を避け、水を逃がすための水路だ。
膨張した東京がまず拡大していったのは、海だった。東京湾埋立地を広げ続けた。次に広がったのは、空。規制緩和によって容積率が上がり、ビルは高層化していった。
東京の開発は日本中・世界中から集まる人・モノ・金で進んでいる。東京は日本の中であかさらまな一極集中なのだ。日本のGDPの5分の1が東京に集中している。
学者は「東京は生物体だ」と指摘する。動き続けているのだ。
丸の内は東京最大のビジネス地区である。それを担っているのは、中心にある三菱地所だ。地価下落以後、外資系企業も集まってきている。「丸の内のインフラは最高だ」と外資系企業の担当者は言う。
港区を中心に開発しているのは森ビルである。日本が世界で戦っていくには、効率化しかない。そのためには高層化であり、そして地下の開発だと森社長は考えている。
森ビルの高層ビル構想のために140年間代々住み続けた場所から立ち退くことになった住民は言う、「新しいところに住むには、何かを捨てていかなければならない」――。

埋立地から発展した豊洲にある小学校の話が印象的だった。全国的に、東京都内でも児童数が減る小学校が多い中、数が増え続けている学校だ。現在は 500人だが、数年後には1,500人になると予想されている。教室確保も今後の仮題だ。児童のほとんどは高層ビルに住んでいる。
校長先生は、ここでの「ふるさと作り」に熱心だった。かつてのような「ふるさと」はここでは望めない。最終的には人と人との繋がりだと、地域住民を集めての祭りを開いた。
森ビルの社長はさらに20年後を見据えた都市計画を構想しているらしい。ますます巨大化し、ますます生命体と化すモンスター都市は、どこへ向かうのか。ミクロの目線で見れば問題点は無数にあるだろうが、マクロ的に、都市論として見た場合、東京は世界に名だたる「沸騰都市」なのだろう。


本放送はこれで終わりだが、昨年放送の前半4回分の都市のその後を追った「沸騰都市のその後」が3月末に放送されるそうだ。
http://www.nhk.or.jp/special/onair/city.html