沸騰都市のそれから

全8回放送されたNHKスペシャル「沸騰都市」。昨年春に放送された前半4回と、今年になって放送された後半4回とでは、大きな違いが一点ありました。この間にアメリカ発の世界的「金融危機」が起きたのです。
前半4都市は、その金融危機によってどうなったのかを追ったのが、エピローグにあたる「沸騰都市のそれから」でした。3月29日放送。

  • ドバイでは不動産価格は4割も下落。しかし買い手はつかない。バブルはあっけなく崩壊した。
  • ロンドンのオークションは、かつて大金を投じていた新興国の富豪はいなくなり、不成立が目立つ。
  • ダッカも出稼ぎした人が送り返される事態になった。
  • トルコ経済も大きく失速。怒りの矛先はアメリカに向かっている。

金融危機を境に激変した沸騰都市のその後――。


ブルジュ・ドバイの建設はまだ進められている。高さは800メートルを超えた。今年9月にはホテルがオープンする。「世界一高いビル」の称号だけはなんとしても手に入れたいのだ。
しかし株価は大暴落。70%も落ちた。
キール社では全ての開発計画の見直しが進んでいる。15%の従業員をリストラした。街の工事も遅れている。
建設機械のオークション会場だけは活況を呈している。工事が中断し、不要になった建設機械を売り飛ばしているのだ。
不動産投資家は、資産を半分にしていた。バブルを見抜いていたが、売り時は間違えた。現在は物件のほとんどを「塩漬け」にしている。
ドバイに活路を見出そうとしていたゼネコン・大成建設も仕事が減っている。来年以降の受注は、全くない。


ロンドンは新興国頼みだった繁栄の脆さが出ている。ロシア人がたくさん集まった「ウィンターフェスティバル」も廃止に追い込まれた。「この一年の急激な変化は手に負えません」と投資家は言う。
プレミアリーグのオーナーになっていたタイのタクシン元首相はわずか一年でチームを売却、ビザも取り消され、ロンドンに居られなくなった。現在は行方不明だ。
失業した金融関係者の就職説明会はいつも満員だ。
ロンドンが保護主義に走ったら危険だと、リビングストン前市長は今でも主張を変えていない。


イスタンブールは、一年前の宗教対立から、嘘のように静まり返った。
国家の負債も大きくなった。EU加盟の前に、IMFの管理下に落ちかねない状況だ。
イスラムデザインのファッションショーも中止になった。今、ファッションを楽しむ状態ではない。しかし、イスラム系の会社は大きなダメージはない、独自のイスラム金融システムがあるからだ。


ダッカの活気は、一年前と変わっていない。海外のお金が入っていない国なので、金融危機の影響はほとんど受けていないのだ。
昨年取材した縫製工場はさらに大きくなり、ビルの2フロア分を占めていた。しかし元請工場では仕事が減っている。海外と直接交渉しているところから、金融危機の影響がじわじわ出てきているのだ。ダッカの縫製工場の1割は倒産している。金融危機はすぐ近くまで来ている。

ダッカでは、アジア各国に出稼ぎに行っていた人々が次々に帰ってきている。特にドバイからの帰国者が多い。強制送還された労働者の怒りは爆発している。海外出稼ぎ者からの送金が国家財政の頼りだったバングラデシュにとって、死活問題でもある。
シンガポールに出稼ぎに行きながら、仕事もできず帰国した人に取材すると、両親と暮らしていた。年収の8年分の資金で出稼ぎに行ったのに、収入はゼロ。貧窮にあえいでいるのだ。


2月、ドバイの地に、ロンドンで活躍していたロシア人実業家が来ていた。新しいビジネスを始める足がかりを掴もうとしているのだ。
キール社が建設しているモノレールの運営に、シンガポールの政府系鉄道会社が名乗りを上げた。シンガポールでは、ドバイへの投資が本格化しているのだ。
キール社は4ヶ月ぶりに新しいプロジェクトを始めた。投機ではなく、長く価値のあるものを作るべきだと奮起している。「景気後退が今後の道を考え直す小休止を与えてくれた」と言う。
イスタンブールのファッション会社は、イランへの輸出が増え、業績が戻り始めている。
ボスポラス海峡の海底トンネルの工事はほぼ完了し、アジアとヨーロッパが繋がった。
ダッカの人材派遣会社はリビアという新しい派遣先を開拓しようとしている。縫製工場の社長は、元請会社社長の忠告に逆らい、新たな工場を開いた。自ら直接、世界と勝負する。経済危機を迎え撃つ覚悟なのだ。
シンガポールから帰った出稼ぎ労働者も補習塾の仕事を見つけていた。「子どもたち一人一人がこの国の財産なんです。彼らは必ず海外に行きます。きっと誇り高く活躍するでしょう」

経済危機後の新しい都市のうねりが、再び世界各地で沸騰を始めているのだ――。

否定的な話ばかりで終わるかと思ったら、後半では新しい事業などの話が中心で、未来に期待が持てる終わり方だったのが素晴らしい。
世界はまだ大変な状況だし、どこも予断は許さないが、また新しい活路を見出していくだろう。投資・投機ではない、真の実力で勝負していくことだろう。
これからの世界は「国」ではなく、「都市」主導型になっていくだろうことを予感させる放送だった。


この「沸騰都市のそれから」は4月15日深夜に再放送が予定されている。