インターネットで選ぶ本格ミステリ大賞2010・発表です!!

お待たせしました。
オフィシャル版の「本格ミステリ大賞」が歌野晶午『密室殺人ゲーム2.0』と三津田信三『水魑の如き沈むもの』の同時受賞に決まりましたので、アンオフィシャル版の「インターネットで選ぶ本格ミステリ大賞をここに発表します。
今年の投票者総数=14名様
投票集計結果(全投票者とコメントはこの下にあります)

『Another』綾辻行人 6票
追想五断章』米澤穂信 0票
『花窗玻璃』深水黎一郎 2票
『密室殺人ゲーム2.0』歌野晶午 4票
『水魑の如き沈むもの』三津田信三 2票

というわけで、栄えある「インターネットで選ぶ本格ミステリ大賞2010」は、
綾辻行人『Another』に決定しました!綾辻さん、おめでとうございます!

Another

Another


実は今年は私、オフィシャル版の「本格ミステリ大賞」への公開開票式に一般枠で当ったので参加してきました。大接戦で、すごく沸いた結果となりましたが、ネット版も(結果の数字以上に)接戦でした。綾辻さんは最後に大逆転、という感じでした。
この背景には、投票者それぞれの本格感の違いがあったのだろうと思います。とりわけ「『Another』は本格なのか?」という大きなテーマがあったようです。投票者がどのように考えたのか、コメントを読んでいただけると楽しめるのではないでしょうか。


なお、今年をもって、私が主催する形での「インターネットで選ぶ本格ミステリ大賞」は終了とします。来年やりたい方には開催権をお譲りしますので、お問い合わせください。


以下に、全投票者の投票内容を転記します。今年も長いです。(投票者の50音順。こちらの構成上、一部改行など調整している箇所があります。
私の編集に間違いがありましたら、ご指摘いただければ修正いたします>投票者の皆様)


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投票者:ALPHA
・投票作品名:『Another』
・理由、コメント

追想五断章:試みとして大変面白いと思ったのですが、読んでいる最中である程度の予測がついてしまったのが残念です。
花窗玻璃:複線の利かせ方が中々巧いな、と思いましたが、建築や美術に関する薀蓄部分が少しダラついてしまった感があります。
密室殺人ゲーム2.0:前作に引き続いての論理や設定の組み立ての面白さが堪能できる作品でしたが、やはりこの作品は前作あってのものだという気がするので、1本の作品としての評価は難しいのかな、と感じました。
水魑の如き沈むもの:相変わらずの三津田ワールド全開の作品で、楽しめました。個人的には、このシリーズでは「首無…」の次に好きです。
Another:「綾辻行人の待望の新作!」という時点でかなり読み手のハードルもかなり上がっていたのだが、それをとりあえずは(「楽々」でないのがチト残念ではあるが)クリアしているのは、流石だと思いました。かなりホラー度の強い作品ではあるが、要所要所をミステリの手法で締めてあることで、作品全体にまとまりが出ている感じがしたので、今回の大賞作品として推しました。


投票者:ウイスキーぼんぼん/ミステリあれやこれや
・投票作品名:『密室殺人ゲーム2.0』
・理由、コメント

『Another』
スリードが極めて巧妙な点が好印象でしたが、犯人の特定方法が本格ミステリの文法からは外れていると思います。本格ミステリとして作品を読む場合、そこの部分をわたしは一番重視しているため、この作品は真っ先に外れます。


追想五断章』
ミステリで一番盛り上がるのは終盤のオチ。オチに力点を置くミステリの基本構成そのものをメイントリックに据えた傑作だと思います。


『花窗玻璃 シャガールの黙示』
芸術によって謎を魅力的に飾っているのが良かったです。物理トリックも印象的ですが、この文章を書いている現在、候補作5作のなかで一番内容を忘れてしまっている作品です。


『密室殺人ゲーム2.0』
ニコニコ生放送の犯罪生中継などを思い浮かべました。登場人物たちは一見すると非現実的な突拍子も無い考えを持つキャラに見えますが、よくよく考えると登場人物の感覚が2ch(特にニュー速VIP板)の住人に似ている(「ネタには全力で釣られるクマー」とか「vipのみんなで○○しようぜ」「VANKに突撃」とか)ため、実はそこまで現実とは乖離していないのかなと思ったり。「出題者=犯人」という約束事の中、高評価を得ている前作を越える趣向をみせてくれたのには驚きました。2ちゃんねるニコニコ動画、RMTで現実とネットを行き来できるMMO、申請するだけで友達関係になれるmixiなど、ネット時代のいまふうの「感覚」を巧みに取り入れた傑作です。乱歩や清張の時代には生まれなかったであろう現代本格ミステリの最高峰だと思います。


『水魑の如き沈むもの』
雨が降り始める前(事件が起こる前)の、いわゆる「嵐の前の静けさ」が不気味でした。自然(雨や水魑様)の力と人間(犯人や探偵)の力の両立はシリーズでは一番だと思います。『首無』のようにネタ詰め込みまくりの作品も良かったですが、ごちゃごちゃしてなく密室トリックが際立っている本作のような作品も良いと思いました。


完全に好みです。出来の良し悪しという点で1作に絞ることはできません。ゆとりのボクは『密室殺人ゲーム2.0』に投票します。


投票者:ugnol/http://www.geocities.co.jp/Bookend-Ryunosuke/1639/
・投票作品名:『密室殺人ゲーム2.0』
・理由、コメント

「密室殺人ゲーム2.0」歌野晶午
 続編というとレベルダウンするものが多いが、この作品にいたっては切れが増したようにさえ思われた。ゲーム的なミステリ作品としては、良い意味でも悪い意味でも最高峰の作品。さらには、ここ最近で本格ミステリ色が一番色濃く出ている作品だということも確かであろう。

「水魑の如き沈むもの」三津田信三
 非常にレベルの高い作品と言えるのだが、三津田氏自身が自己の作品によって、どんどんと敷居を高くしてしまっている。この作品もうまくできていて、綺麗にまとまっているものの、これといった強烈さがなかったところが印象を薄くしている。とはいえ、ここに作品が挙げられ続けているというだけでも、ものすごいことだと言えるのだが。


追想五断章」米澤穂信
 意欲的な野心作であり、挑戦的な作品でもあるのだが、ミステリとして成功しているかは微妙。むしろ意欲的すぎて、文学的な方面へはみ出したまま終わってしまったように感じられた。最後にそこでもう一息、ミステリ的な仕掛けでも欲しかったところ(というか期待していた)だが、そういう意図で描いた作品ではなさそう。


「Another」綾辻行人
 確かにミステリ的な仕掛けはあるものの、個人的にはホラー小説だと思っている。面白く読めたものの、巻き起こる怪奇現象があまりにも大きくなりすぎ、閉鎖された地域内の怪奇現象というにはバランスが欠けてしまったように感じられた。少年少女向けの読みやすいホラー小説という印象のみが残っている。


「花窗玻璃 シャガールの黙示」深水黎一郎
 色々と趣向を凝らしているようではあるが、あまり伝わってこなかった。ゆえに、変わった書式の手記に描かれた平凡な事件としか捉える事ができなかった。起こる事件もプロローグで描かれているもののみということで、ページ数のわりには長いと感じられた。


投票者:m-freak本格ミステリの深淵
・投票作品名:『密室殺人ゲーム2.0』
・理由、コメント

小説としての面白さは、ダントツで「Another」だと思います。
しかし、本格ミステリ大賞という視点で考えたときに、
大賞として選ばれるのは「密室殺人ゲーム2.0」でしょう。
あの舞台設定でしか成立し得ないトリックの数々、
そして、その構成の巧さ。
あの前作の続編であることの不利な点を、
むしろうまく生かして物語を作り上げるその技量にただただ脱帽です。
これも本格なんだなと感じさせながら、これこそ本格とも思える。
絶妙なミステリです。
それにしても、デビュー作を考えると、歌野氏の化けっぷりには驚かされますね。


次点には、「追想五断章」を挙げます。
今、勢いを増している米澤氏の懐の深さを感じさせてくれた作品です。
父が書き残したはずの5本のリドルストーリーを追い求めながら、
そこに隠された謎に迫る。ある意味淡々と物語は流れていきます。
しかし、ページをめくる手を止めることは出来ませんでした。
文章の美しさも、連城三紀彦氏の作品を彷彿とさせます。
最終的な驚きの大きさで、やむなく次点としました。


そして、「Another」。
綾辻氏の力を見せつけられました。
まさにホラーと本格ミステリの融合。真骨頂ですね。
読み進めるにつれ深まる、ゾクゾクとした緊張感、
そして、結末が明かされたときに立つ全身の鳥肌、
後から気付く綾辻氏らしいあからさまな伏線の数々、
ミステリを読むのって、やっぱり楽しいなと感じさせてくれます。
この作品を本格として認めるミステリ作家がどれだけいるか、
場合によっては接戦になるのかもしれません。
ただ、綾辻氏自身はこれまでの発言でも、本格というよりホラーと考えているようですし、
どちらかというと「ミステリージョッキー」の方で賞をとりたそうなので、
結局、オフィシャルでも大賞は難しい気がします。


「花窗玻璃 シャガールの黙示」、「水魑の如き沈むもの」の2作品は、
前述の3作品と比べるとやや質が低いと言わざるを得ません。


「花窗玻璃 シャガールの黙示」で背後の隠された縛りには驚嘆はしますが、
それにこだわりすぎたためか、作品中の2つの事件がばらばらに感じます。
その繋がり、また、トリックにも必然性が感じられないのが残念です。
ステンドグラスの蘊蓄は面白かったのですが。


「水魑の如き沈むもの」は、三津田氏らしい作風がだいぶ浸透してきて、安心して読むことができました。
ただ、本作はその雰囲気を楽しむだけになってしまっています。
過去と現在の事件とのリンクが弱いために、
最後の驚きがそれほど大きくありません。
また、その間に触れられていた伏線も、いくつか回収できていないままです。
全体的にちょっと雑に感じた作品でした。


投票者:音倉誓示/謎と論理と遊び心
・投票作品名:『Another』
・理由、コメント

 どれか一作品だけを選ぶという作業に、非常に苦心しました。頭で考えて選んだ作品と、心で感じて選んだ作品が違っていたからです。そして散々悩んだ挙句、「Another」に1票を投じる事にしました。


 「追想五断章」は、リドル・ストーリーに施されていた仕掛けにまず唸らされ、そこから浮かび上がってくる真相やその苦みも含め、非常に米澤氏らしい一作だったと思います。好きな作品ではありますが、本格ミステリ大賞に推すには少し方向性が違うかなと感じました。


 「密室殺人ゲーム2.0」は、冒頭で著者が名言しているように、まずはその(1作目である「密室殺人ゲーム王手飛車取り」からの)物語の「ずらし方」が巧妙で、シリーズを通しての読者にとっては大きな驚きとなりました。また「生存者、一名」でも使われていた、幕間に報道を挟む手法も効果的だったと思います。「相当な悪魔」の章の鬼畜殺人などは非常に好みのトリックでしたが、大賞に推さなかった理由は2つ、前作を読んでいない読者には同等の評価を得られないであろう事(大長編の構想の2部目にあたるのでやむを得ない事ではありますが)と、最後に044APDが仕掛けた問題が割と簡単に見抜けてしまった事です。


 「花窗玻璃」は、恥ずかしながら私にとって深水黎一郎作品の初体験となりました。作中の手記の特殊な表記に最初は辟易したものの何とか慣れ、魅力的な瞬一郎のキャラクターに惹かれながらページを繰りましたが、事件の真相やその手口には割と分かりやすい伏線が多々あった事もあり、少し物足りなさを感じました。・・・・・と、ここで感想を終わると著者に「こいつ分かってねーな」と笑われそうですので、ミステリマニアのはしくれとしては更にもう一段階深く読み込む事はしましたが、やはりこれはよほどの読者にしか勧められないと感じ、色んな読者に「この受賞作絶対面白いから読んでみて!」と勧めたい私としては、今回は外させて頂く事にしました。しかし面白かったので、深水さんの他の作品は必ず読むつもりです。


 「水魑の如き沈むもの」は相変わらずの安定した面白さで、終盤の多重解決(?)に今回も気持ちいい酩酊感を味あわせて頂きました。巧妙な視点の操り方も相変わらずで、登場人物のちょっとしたリンクもシリーズの読者としては愉しみどころだったと思います。いつもの事ですが、怪異を絡めて展開する物語にも関わらず非常に論理的で、今回これを選ぶかどうか、最後まで悩みました。


 そして「Another」。もしかすると、そもそもこれは「本格ミステリ」なのかどうか、意見が分かれる作品なのかもしれません。私は「本格ミステリ」を他人に説明する時は「読者に対してフェアな伏線が張られ、魅力的な謎が論理的に解かれる物語」という言い方をしています。そういう意味では「これは本格ミステリではない」という読者がいても不思議には思いません。しかし、私にとって「本格ミステリの魂を持って」書かれた作品は全て「本格ミステリ」です。ミステリを読んで、声を出して叫んだのは久しぶりでした。最終的には自信を持ってこの作品に1票を投じる事にしました。


投票者:omsoc/God helps those who help themselves.
・投票作品名:『密室殺人ゲーム2.0』
・理由、コメント

 『水魑の如き沈むもの』
 なまじロジカルに見せかけておいて、仮説の一つは探偵の「印象」によって退けられてしまうあたりに代表される非論理性。とある登場人物の行動におけるご都合主義さ(あそこまで執着するなら、1度失敗した以上、次は何らかの改善策を施すだろうに。目立たぬところに釘を打ってしまうとかさ)。「本格」としては余りにも造りが緩いんでないかい?


 『花窗玻璃』
 taipeimonochrome氏の書評を読んで真の趣向を知るまでは、単に端整な本格ミステリと思っていたーーという点では、自らの不覚を恥じるしかない。ただ、あの趣向が、少なくとも自分の考える「本格の面白さ」と、ちょっくら違うように思えた、というのはこちらの負け惜しみか?
また、ある種のおふざけと理解しているけど、それでもあの「読者が被害者」ネタはちょっと。


 『Another』
 「学校の怪談」をネタにして、スーパーナチュラルな謎を設定し、見事に騙してくれた手腕に拍手。「綾辻行人、見事に復活!」なのである。ただ、分量が多かった分、「本格」としての密度が若干薄く、「本格ミステリ大賞」に相応しいかどうかという点で引っかかってしまったのだった。残念。


 『追想五断章』
 リドルストーリーに仕掛けられた超絶技巧からは「一文たりとて疎かにせず」という作者の気迫が伝わってくるようで、真剣と対峙しているような気分になったわい。大分方向性は違うけれど、今は亡き泡坂妻夫の影がちらりと見えたような気もする。バブル崩壊直後という時代設定が産み出す探偵譚の切なさにも読み応えがあり、「本格ミステリ大賞」に値する作品だと思った。んが……


 『密室殺人ゲーム2.0』
 シリーズ二作目なので、前作ほどのインパクトがないのは事実。とはいえ、時代性を見事に反映した卓抜な設定は、この先が袋小路であったとしても、本格ミステリ史上に銘記されるべきだと強く信じる。「動機無視の欠陥商品」かもしれないが、おもちゃ箱でも見るような「トリック詰め合わせ」はやはり楽しく、「前作との合わせ技一本!」ということにして、この作品に一票を投じる次第である。6作目まで作られた「ソウ」同様に、こちらのシリーズもまだまだ続くといいんだけどな。


投票者:ジアラト
・投票作品名:『Another』
・理由、コメント

『Another』
超絶対不可能状況下の超犯人当てを成立させた超絶技巧が炸裂した超絶難度の超長編。並大抵の不可能犯罪・奇想では太刀打ちのできないほどの奇跡をこの作品に見た。

『水魑の如き沈むもの』
本格界・ホラー界の中心に陣取って、燦然と輝き続ける珠玉のシリーズ。長編第五作目に当たる今作でもその非常に高い水準を易々とクリアしており、捻りに捻った真相が読者を待ち構えているのは圧巻といってもいい。常に妥協なき本格へのこだわりを高く評価したい。

『密室殺人ゲーム2.0』
あまりに早く本格ミステリの極点にたどり着いた印象のある著者が、また新たな極点を模索し、その結果たどり着いた誰も見たことのない本格マニア愛好家の為のユートピア。著者により創られ、登場人物たちにより造られた夢の世界。トリックのためのトリック・ロジックのためのロジックを求め、マニアたちは永遠の彷徨を続ける。

追想五断章』
精緻にして老練な文芸ミステリ。試み自体が十分に愉しいのに、まるで当然のごとく、趣向の「上」を達成してくる。これが現代ミステリの域なり。

『花窗玻璃』
趣向に酔う。文章に酔う。雰囲気に酔う。構成に酔う。詭計に酔う。物語に酔う。作品に酔う。作者に酔う。それはまるで魔法のよう。
本格ミステリであろうとしながらも、本格ミステリにとどまることのない本作品。これからも、「安心して『何をやってくるのかわからない』ということが期待できる」希有な作家。


投票者:とまり
・投票作品名:『花窗玻璃』
・理由、コメント

作品としての完成度や結末の意外性としては『Another』が勝っているし、『密室殺人ゲーム2.0』は素晴らしい過ぎる続編だと思う。また、『追想五断章』は優れた本書くミステリだと思うし、『水魑』の横溝風世界を活かした真相で、何度も読者を驚かせようという姿勢は候補作中最も優れていたと思う。だが、ここは本格の未来を託す、という意味で『花窗玻璃』に投票することにした。
追想五断章』は候補作中、死んでしまった人間の想いを捜し、受け取るという心打つ展開で、最も素晴らしい"小説"であるとは思うが、驚きや論理性という意味で本格ミステリとしては劣っていると感じた。
『密室2.0』は「続編としてはいい出来」というレベルではなく、「考え得る限り最高の続編」であり、読んでいて非常に感心させられた。トリックも練られていて満足したのだが、巧みさが先行して軽い作品になっているのは他作品と比べた時に欠点と感じてしまった。
『水魑』は横溝風の意匠を活かした真相である上に何度もどんでん返しを重ねていく手法は間違いなく本格ミステリであり、本格の風格は候補作中トップだと感じたが、その反面、古いとも感じてしまった。
『Another』は手法も雰囲気も文章も登場人物もすべて好みで、ワクワクしながら読んでいき、最後の1行まで楽しませてくれた。自分がミステリに求めるもののすべてが詰め込まれていて、最高の読書体験だった。
『花窗玻璃』は芸術論と合わさったトリックや真相が印象的だったが、完成度や本格のレベルの高さでは『Another』や『水魑』に劣ると思う。だが、カタカナを使わない物語を描く必要性や、その読者を物語の中に引き込む手法に、本格ミステリの未来を最も感じたため、この作品に投票することにした。
正直、今年の候補作は例年になく悩まされた。


投票者:名無しのオプ
・投票作品名:『Another』
・理由、コメント

『Another』はさすが熟練の味。長さを感じさせない緩急の付け方、伏線の張り方。
ミステリとしても、物語としても、完成度がとても高かった。
これが本格ミステリか否か、の判断はすごく分かれそうですが、自分は本格だと思いますので、これを推します。
追想五断章』は、リドルストーリー5本立て、非常に意欲的な作品で、好きな作品ではありますが、
この中でいちばん良かったかと言われると、少し口ごもる。言葉にできない何か足りない要素があるような気がして。
『花窗玻璃』は、テーマと事件の融合が非常に高レベルで行われていて、
完成度はすごく高い、のですが、自分の好まないとある趣向があって申し訳ありませんが推しきれず。
『密室殺人ゲーム2.0』は、想像の斜め上を行く展開、連載時に一部読んでいてもかなり印象が変わりました。
ですが、前作を読んでいないとうけない趣向があったりで、単発として評価すると一段落ちます。
『水魑の如き沈むもの』は、どんでん返しは美しかったけれど、長さを支えきれるものではない印象。
以前の刀城言耶シリーズを上回る出来か、というと、口ごもりたくなる。
似たような解決の風景を見たような記憶もあって、シリーズものはどうしても分が悪くなります。


投票者:「鳩時計」子fromやぶにらみの鳩時計@はてなやぶにらみの鳩時計@はてな
・投票作品名:『水魑の如き沈むもの』
・理由、コメント

 三度目の正直、今度こそ三津田さんが受賞してくれるようにとの祈りをこめて。
 それにしても、歌野さんは大賞を受賞してから、今回で二回目の候補になるんですね。新人さんには、歌野さんの冒険精神を見習ってほしいもの。
 『Another』は私はいわゆる「本格」ではないと思いますが、議論のある作品を俎上に載せるのはよいことだと思います。で、『ダブル・ジョーカー』は、エスピオナージ作品に分けられてしまったのでしょうか。


投票者:政宗
・投票作品名:『Another』
・理由、コメント

今年はものすごく悩んだ。どれを推してもいいと考えたくらいである。


私にとって昨年のミステリのベストは『Another』なので、本来なら迷うことなく『Another』を推すべきなのだが、ホラーの要素が強い作品に「本格ミステリ大賞」が相応しいのか、と考えてしまった。しかし、やはり最も驚きの大きな作品だったし、綾辻行人がデビュー以降、一貫してきた作風の集大成であり、新たな代表作になり得る作品として、なんらかの冠を与えるに値する作品だと思い、最終的に本作を推すことにした。


同様に本格ミステリとホラーの融合といえば『水魑の如き沈むもの』である。相変わらずハイレベルな作品で、本格としても完成度が高いが、このレベルの高さが逆に著者を縛ってしまい、変にマニアックなだけの作品になってきているように思える。広く一般にお薦めしたい小説ではなかった。


『花窗玻璃』は候補作中、最も「本格寄り」の作品だった。カタカナを使わず総ルビの趣向があって一見奇異に見えるが、実に読みやすく、美術論と本格ミステリもうまく融合されている。趣向の面白さとサプライズが比例しなかったことが惜しい。


『追走五断章』は実に素晴らしい小説である。緻密に計算された仕掛けには唸るしかなく、それは泡坂妻夫連城三紀彦に通ずるものがあった。作者の可能性を感じさせる作品だが、「本格」としてどうか、ということで躊躇した。


最大の問題作、『密室殺人ゲーム2.0』は、実は個人的には最も「面白い」と思った作品である。そもそもパート2などあり得ない状況の中で続編を書き上げる力技、そして各短編の「破格」ぶり。一読して、もう一生忘れないと思ったトリックがいくつもあった。変化球の本格として、とても高く評価しているのだが、「これが本格ミステリだ!」と広く訴えることに抵抗がある。いや、大好きなのだが。


投票者:みっつ
・投票作品名:『Another』
・理由、コメント

今年も候補作には力作が揃い、どの作品も非常に楽しめたが、その中でも個人的に「Another」の存在感は圧倒的でした。


新本格の礎を築き上げたトリックメーカーとしての技量に長年培ったホラーのスパイスを加味した今作はデビュー20年を経た綾辻行人だからこそ到達できる大傑作。
気持ちよくノックアウトして貰って気分爽快でした(笑)


「水魑の如く沈むもの」は、シリーズ最長作品として序盤から丁寧に描写を重ね、じっくり読ませるものの、解決部分に至りやや駆け足なのが残念。


「花窗玻璃」は前2作以上に本格ミステリと芸術の融合に成功している手腕がお見事。
嫌味にならない薀蓄と地味だけど味わい深い伏線の妙味を堪能した。


まさかの続編「密室殺人ゲーム2.0」にはパワーアップした悪趣味さを含めて楽しめた。
冒頭の「次は誰が殺しますか」と「相当な悪魔」の破天荒ゆえの衝撃度合いの凄まじさは素晴らしい。

追想五断章」は作者のビターテイストな作風と作中作のリドルストーリーの真相がベストマッチ。
仕掛けの見事さだけでなく、その見せ方まで含めて美しい作品。


投票者:mihoro/http://www.geocities.jp/y_ayatsuji/
・投票作品名:『水魑の如き沈むもの』
・理由、コメント

読んだ順番に書きます。

『Another』
まず、「What?」「Why?」「How?」「Who?」という、冒頭の四つの謎の提示の仕方がエレガント。「超自然的自然現象」という設定が、一見ゆるいようでいて実は緻密なことにも感心した。ミステリとして納得できるぎりぎりのところで、上手に物語を成り立たせているなと。
伏線もかなり大胆に張られていて、「伏線は多ければ多いほどいい。それらがラストで収束して、意外な解決が表れる」(「おんなじ穴」という番組内での綾辻発言)を本格の定義とするならば、『Another』を本格ミステリとして評価することに何ら異論はない。ない‥のだが、たとえばミステリ初心者に「本格ミステリを読んでみたい、お薦めを教えてもらえますか?」と訊かれて、いきなりこの本は薦めないなあ。
「好きな作品」は、五作の中で『Another』がぶっち切り一番だが、本格ミステリ大賞への投票はためらわれた。苦渋の決断(んな大げさな)。


追想五断章』
氷菓』『さよなら妖精』を経て著者がたどり着いたひとつの到達点。まず、作中作の完成度の高さに驚いた。散逸したリドルストーリーの行方を追う過程には心が躍ったが、精緻に仕組まれた物語が最後に着地するのは、まさしく「雪の花」の手触り。ただ、結末に100%納得できたかと聞かれると‥うーん‥「なんでこんなまわりくどいことをするんだろう」なんて、大ざっぱなこと云ってちゃいけないんだろうなあ(笑)。


『密室殺人ゲーム2.0』
『密室殺人ゲーム王手飛車取り』の続編が出ると聞いたときは、えっ、あの話の続きをどうやって?と思ったが、ふーむ、やはりこう来るよな。カレンダーが印象的。


『花窗玻璃』
嫌みなく蘊蓄を読ませる手練はなかなかのもの。トリックは、あちこちに顔を出していた小道具が上手く機能していたと思う。カタカナをすべて漢字で表記した作中作は、mixiアプリ「漢字テスト」の上級攻略に、ゆくゆくは役に立つかな、と(笑)。


『水魑の如き沈むもの』
正直に書きます、作者並びにファンの方々ごめんなさい。
全体の四分の三を読んだ時点では、「この作品に投票することは絶対あり得ない」と思っていた。戦後十年という時代をまるで感じさせない軽〜い会話、土地の匂いも人の顔もなんにも浮かんでこない色のない文章、いやもう泣きたくなるぐらい読むのがしんどかった。
が、連続殺人が起こるあたりから俄然面白くなり、おなじみの「推理ノート」を経て真相にたどりつくまでの過程が、これがもう、めちゃめちゃ好みっ。未読の方のために詳しくは書けないが、こういう見せ方、一番好きなんですよ。毎年、候補作レベルの作品を上梓している三津田さんへの「功労賞」も若干込めつつ、『水魑』に一票!


投票者:monstre
・投票作品名:『花窗玻璃』
・理由、コメント

表の解釈としては、第一の転落殺人は島田荘司直系のような物理的トリックと目撃者の錯覚による幻想的visualが魅力的でこちらが主食、第二の浮浪者の行き倒れに見えた殺人は地味ではあるけど伏線が上手く機能している副菜。しかし、作品の最大の魅力は作品中で語られなかった部分にあるのだろう。副題である「シャガールの黙示」は単に教会に捧げられたシャガールの絵に神秘の力が宿り予言に昇華したのか、それともそれを見た者の深層心理に影響を与える"操りテーマ"の変奏と捉えるかは分からないが、後者と考えれば作中の「シャガールの呪い」を口にした人物の主張に別の意味が付与され作品に奥行を感じられる。 本格ミステリとしての誠実さで本作を一位に推したい。ただし、過去3年のレベルの高さを思えば、今年でなければ受賞するレベルとは思わない。


2位 三津田信三「水魑の如き沈むもの 」。今までの刀城言耶シリーズでは、作品世界のフレームワークを歪ませるようなアプローチが採られてきたのが、今回の伏線は極めてナチュラルであることを意識しているように見える。その分、読者に伏線を意識させるためにストーリー上の重要点に伏線を含ませることによって記憶には残しつつも、読者の意識への引っ掛かりは少なくしている。それ故、作品の印象そのものが過去の作品よりも地味になっているが、技術的には以前よりもさじ加減として高度なことをやっていると評価する。ただ、そのプラス・マイナスを考慮するとこの順位。


3位 歌野晶午「密室殺人ゲーム2.0 」。コロンボは前回死んでいるはずなので妹がそのままなりすましているか、新たなパーティーなのかという外枠の謎は最初の段階で見えていたが、個々の事件は前回よりもよく練られていて高評価。最終的にコロンボが死ぬというのがこのシリーズのお約束になるのか? それとも次の作品の伏線かは次作次第。Q1の集合住宅をカレンダーに見立てた事件が一番良かった。


4位 綾辻行人「Another 」。what why how whoの四つの謎が順に提示されると聞いていたが、前の二つは事件の進行にしたがって、推理の過程をあまり経ずに明かされるので本格ミステリの視点からは評価対象とならない。ただ、設定とストーリー展開は素直に面白く、お家芸の叙述と丁寧な伏線も綺麗に決まり、回復の兆しを見せてくれた点は嬉しい。

5位 米澤穂信追想五断章 」。文章力はアップしているように感じたが、最後の「雪の花」はリドル・ストーリーになってないのではないだろうか? 最後の一文が無くても、その前の一行で内容が確定しているし、男が自殺した時点で妻の死を悩む人間が失われたのでリドルの醍醐味が失われている 。